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4.伯爵令嬢、師匠を手伝う(2)

「はいはい、カリーネさん。ワンピースの直しが終わりましたよ」

 リンが先ほどの藍色のワンピースを手にしている。

「ありがとうございます」

 そのワンピースを受け取ったカリーネは、残ったお茶を一気に飲み干すと、部屋に戻り、藍色のワンピールに着替える。先ほどまでの胸とお尻がきつかったシャツとズボンにくらべ、動きやすい。


「ハイケさん、リンさん。ありがとうございます」

 ワンピース姿で現れたカリーネに、ハイケは一瞬目を疑ったが。

「よく、似合っているよ」


「ゆったりしていて動きやすいです。だけど、足元がすーすーします」


 それは今までカリーネがゆったりとしたデザインのズボンをはいていたから。それでもお尻はきつかったのだが。


「そのワンピースは丈が長いから、そのままでも大丈夫よ」

 恐らくハイケは魔導具の修理にはそのままの恰好でも問題ない、ということを言いたいのだろう。


「カリーネさんが穿けるようなズボンも、いくつか買ってきましょうね。せっかくのワンピースが汚れると困りますから、エプロンをお使いください」


「ありがとうございます」

 どうやらハイケが持ってきた服の中に腰エプロンもあったようだ。白と黒のチェック柄で、今のワンピースにも似合いそうな気がする。


「そのエプロン。私が学生の頃に使っていたものだわ。懐かしいわ」

 それが今から何年前であるのかを、ハイケに聞いてはいけないのだろう。ここにラーシュがいたのであれば、間違いなく聞いていそうだが。


「本当にカリーネ。この半年でぐんと成長したんじゃない? 身長も伸びたわよね」


「そうですか? 自分ではあまり気付かないのですが」


「ずっと会っていないご家族なら、驚くかもしれないわね」


 よいしょ、とテーブルに手をついてハイケは立ち上がる。


「リンさん。片付け、お願いしてもいいかしら? あと昼食の準備もね。成長期が一人いるから、栄養のあるものをお願い」


「はい。それが私の仕事ですから」


 ハイケは片づけをリンにお願いすると、地下の工房へと戻る。カリーネもそのあとを追いかける。

 地下にある工房は、石造りの壁で囲まれているため、いつでも空気がひんやりとしていた。外の気温が下がれば、暖炉に火を入れることもあるが、今日のような気温は熱くもなく寒くもなく、長袖のワンピース一枚で過ごせる。


「カリーネ。これが修理依頼の魔導具よ。困ったことに、全てボルネマン商会の魔導具。別に、あそこに恨みがあるわけではないけれど、この量じゃ恨みたくなるわよね。っていうより、あの商会らしくないっていうのが本音よ」


 ハイケが指を差した先には、似たような魔導具が十個ほど並んでいた。


「師匠はこれを修理し終えたんですか?」


「まだよ。終わったのはこっちの一つだけ。どうやら、起動ボタンを押しても起動しないみたいなのよ。だからね、起動回路周りを確認して、動かない回路部分の部品を交換したんだけどね」


「てことは。こっちもその可能性が高い、ということですよね」


「そうねぇ。一体いくつ作ったのかわからないけれど、ちょっと数が多すぎるのよねぇ」


 修理依頼がきている魔導具は、全て魔導音声放送機だ。魔導音声放送機は、魔導映像機と異なり、音声のみを放送するもの。防災情報だったり、歌謡曲だったり、音声のみを魔力波(まりょくは)に乗せられて放送される。


「そもそもこの魔導具って、昔からボルネマン商会で扱っているものなのよ。それがさ、新しいものに買い替えた途端に壊れたっていう話が続出なのよ」


 昔から作っている魔導具。それが突然、大量に初期不良を起こしている。となれば、その製造過程において何かしら変化点があったということ。

 カリーネは綿の手袋を両手にはめて、修理依頼の魔導具の外観を確認する。見事なまでに、同じような魔導音声放送機。色違いなどはあるが、基本的には似たような構造。製造元が貼り付けている銘板から製造番号を確認する。これもまた、似たような製造番号のようだ。となれば、同じ時期に製造した可能性が高い。

 先ほどハイケが修理したという魔導具も手にする。こちらも似たような製造番号であった。

 つまりこの時期、この魔導具の製造工程で何かしら変更が加えられた、考えるのが妥当。


 未修理の魔導具を一つ手にしたカリーネは、自分の作業台に座る。不具合を確かめるために、魔導具の起動ボタンを押してみるが、どうやら起動しない様子。ハイケが言っていた内容と一致する。

 不具合が確認できたため、カリーネはゆっくりと外装を剥がして魔導回路を露出させた。起動しないというのであれば、起動回路を確認していくのが無難。だが、解析の前に回路図が欲しいと思い、カリーネはこの魔導回路を回路図へと落とし込み始めた。


「……ネ、カリーネ」


 名前を呼ばれて顔をあげる。


「お昼の時間。夢中になっていたわね……って、あなた。これ、この回路図」

 ハイケはカリーネの書いているものに気付いた。それは間違いなく彼女がこれから修理しようとしている魔導具の回路図。


「あ、はい。解析のために、回路図に落とし込んでみました」


「え、ええ。解析のためには回路図があった方が便利だけれど。この現物から、回路図にしたのよね」


「あ、はい。繋がりが分かれば、回路図にすることはできますから」


「いや、うん。理屈はわかるんだけど。だけどね、それって、誰でもできるわけじゃないから」


 規格外だわ、とハイケは呟くが、それでもこの弟子がどこまで成長するのかが楽しみでもあった。


「お昼の時間だから、一度休憩よ」


 カリーネは名残惜しそうに書きかけの回路図を見つめてから、立ち上がった。ご飯をきちんと食べる、というのはこの工房での約束事。

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