4.伯爵令嬢、師匠を手伝う(1)
カリーネがこのストレーム国の魔導具士養成学校に通い始め、半年が経った。
「あら、カリーネ。ちょっと服が小さくなったんじゃないの?」
今日は学校が休みの日。ハイケから指導を受けながら、彼女の手伝いをしていたカリーネなのだが、休憩時間にハイケからそう言われてしまった。
するとハイケのその言葉に、リンも「あら、そうですね」と呟く。そして、そう言われてしまうと。
「ちょっと胸とお尻のあたりがきついです」
少し前からそんな気はしていたのだが、他人から指摘されてしまうと余計に気になってしまうから不思議なものだ。
「カリーネ。ちょっと待ってなさい。私の服を貸してあげるから」
「でも、師匠の服だとまだ大きすぎるかと」
「大丈夫ですよ、カリーネさん。直してさしあげますから」
ハイケが急いで何着かの服を持ってきてくれた。
「これね、昔、私が着ていた服。捨てなきゃいけないとは思いつつも、タンスの肥やしになっていたやつだから、好きに着て」
「カリーネさん。このワンピースなんか、どうですかね?」
リンはハイケが籠に入れて持ってきた服の中から、長袖の藍色のワンピースを手にしている。
「ちょっと裾が長いようですが、そこはすぐにお直ししますから」
カリーネが頷くよりも先に、リンはすぐに裁縫道具を持って来てワンピースの裾をあげる準備を始めている。
「よかったわ。肥やしが役に立つ日がきて。だけど、少し新しい服も必要でしょう? 今日、昼ご飯を食べてから買いにいってきたらどう?」
「ですが、今日は、修理依頼の魔導具がたくさんありますよね?」
「でしたら、私がカリーネさんに似合いそうな服を買ってきましょうか?」
リンの申し出はカリーネにとっては非常に助かるものだった。そもそも、姉のリネーアと違って、カリーネは自分の着る物に対して無頓着である。着ることができればいい、というそのレベル。
「ですが、カリーネさんはこれからも成長すると思うんですよね。既製品でゆったりしたものを何着か見繕うという形でいいですか? あとは、ハイケさんの服を直しましょうね」
「カリーネにも成長期がやってきたのね」
とハイケは笑っている。
「最近は、食欲も出てきたようですからね。これからまだまだ成長されますよ」
その言葉を聞いたカリーネは、なんとも微妙な気持ちになってしまった。自分が自分でなくなってしまうような、そんな気分。
「どうかした? カリーネ」
カリーネの様子に気付いたハイケが声をかけてきたが、カリーネは「何でもありません」と答えてから。
「それよりも師匠。最近、魔導具の修理依頼が多くないですか? 急に増えたような気がするのですが」
カリーネさん、立ってください。とリンに言われ、腕をあげたりしながらカリーネはハイケと話を続ける。
「そうね。さらにもっと言うならば、同じような商会の同じような魔導具が多いのよ」
「え?」
「カリーネさん、もういいですよ。すぐにこのワンピースをお直ししますから。お茶でも飲んで待っていてください」
カリーネはちょっときつい服のまま、ハイケの向かい側に座ると、ハイケがお茶を新しく淹れてくれた。
「師匠。その、同じような商会の魔導具の件なんですが……」
「ええ。修理の依頼が多いのは、ボルネマン商会の魔導具なのよね」
頬杖をついてハイケが答える。
「ボルネマン商会って、きちんとしてるところじゃないですか。こう、闇商会じゃないですよね」
「そうなのよ。だから、不思議で。まあ、たまたま、初期不良に当たっちゃったといえばそれまでなんだけどね。だけど、修理依頼のきている魔導具って、昔からボルネマン商会で扱っている商品なのよね」
初期不良。購入してすぐに、設計段階やら製造工程やら輸送やらの過程で何らかの不具合が発生し、機能上に欠陥が表れてしまうこと。故障率を表すものとしてはバスタブ曲線が有名である。初期故障期と摩耗故障期の故障率が一気に跳ね上がる様子をグラフに示したもの。
今、ハイケの工房に修理依頼で出されている魔導具は、どちらかというと初期故障期に故障したものが主。買ったばかりなのに、と愚痴を言いながらハイケに修理を頼んでくるのだ。
もちろん、使いすぎて壊れたものであっても、使用者が修理を望むのであればハイケはそれを引き受ける。やはり、長年使っていると愛着が沸くという客もいるし、最近の魔導具よりも昔の魔導具の方が好きだと言う客もいる。
「ハイケさん。その魔導具の解析と修理、私がやってもいいですか?」
「ええ、もちろんよ。もう、数が多すぎで私一人では無理だもの。ちょうどあなたにお願いしようと思っていたところだったの」
壊れた魔導具を修理するのは簡単だ。壊れた場所を突き止めて、その部品を交換すればいいだけだから。だが難しいのは、なぜその魔導具が壊れたか、という原因を突き止めること。だが、原因を突き止めなければ同じような不具合は発生してしまう。ただの初期不良であれば、製造元の商会に突っ返せばいいのだが。




