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3.伯爵令嬢、学校へ行く(2)

 さて、ラーシュと別れたカリーネだが、どこの教室にいけばいいのかということくらいはわかっている。そして、その教室に入るや否や「おはよう」と声をかけてくれる知人もできた。

 それは先日、ラーシュに連れられてこの学校を訪れた時、学校案内のときに紹介してもらえたから。


「おはようございます」


「カリーネの席はそこよ」

 と声をかけてくれたのは、アグネスだ。面倒見のいい姉御肌タイプ。そして、貴重な女子学生。

 やはりこの魔導具士養成学校に通う者は、男性の方が多い。実際、女子学生の数というのは全体の一割にも満たないらしい。そして、通っている生徒の年齢であるが、下はカリーネの十六歳から、上は他の生徒から長老と呼ばれて親しまれている六十七歳まで。街の学校を卒業した者から、魔導具士の工場で働きながら通っている者、第二の人生を謳歌したい者など、年齢も経歴も様々な人たち。

 アグネスは、年は二十五歳になったところ。魔導具の工場で働いているのだが、そろそろ工場の製造部の責任者を任されることになりそうで、それで工場の薦めでこの学校に通い出したとのこと。


「アグネス。この子が噂の留学生か? なんだってちっこいな」

「きちんと食べているのか?」

「あ、おやつがあったんだ」


 よくわからないうちに、カリーネの机の上にはお菓子の山が出来上がった。


「アグネスさぁん」

 カリーネがアグネスに助けを求めると、彼女は口の両端を持ち上げて笑っている。


「みんな、カリーネが可愛くて仕方ないのよ。だって、こんなに可愛らしいんだもん」

 アグネスがカリーネの頭を抱えて、自分の胸元に押し付けてくる。これではまるで、愛玩動物のような扱いだ。

「いくら十六から通えるといってもね。みんな、もう少し過ぎてから通うのよ。魔導具士として仕事を経験してからね。だから、カリーネみたいな子は珍しいの」

 愛玩動物ではなく、珍獣扱いだったのか。それでも、いじめられたり嫌がらせをされたりするわけではないので――つまりそれだけ大人な学生たちが集まっているのだ――、そこだけは安心ができる。


「カリーネはどこの工場で働いているんだい?」

 一人の男性、恐らく年は三十代後半くらい、が尋ねた。

 働いている前提で質問をしてくるあたりが、この学校に通う学生たちの特長を表している。


「あ、はい。お師匠さまはハイケさんです」


「えっ」

 周囲にいた人たちが、ささっと一歩退いた。

「ハイケってあのペッツォだろう? 愛想がなくて偏屈な」


「え、そうなんですか?」

 カリーネは首を傾げる。カリーネの知っているハイケは、カリーネの世話を甲斐甲斐しくして、さらに魔導具士としての仕事も手伝わせて、世話好きなお姉さんに見えたのだが。愛想がないにも、偏屈にも、カリーネには心当たりは無い。

「お師匠さまは、とても優しいですよ」

 カリーネのその言葉に、誰もが信じられないという表情を浮かべている。


「きっと、それはカリーネのせいね。だって、こんなに可愛らしいんだもん」

 はい、あーん、とアグネスが言うものだから、つい口を開けてしまえば、その口の中に焼き菓子を放り込まれた。

 もぐもぐしながらカリーネは考えた。母親からも姉からも貧相と称されているこの身体だが、もしかして役に立っているのでは、と。愛玩動物でも珍獣でも、可愛がってもらえるのであれば、嫌われているよりは数百万倍いいだろう。それにカリーネ自身がこの身体を一番気に入っている。何より動きやすいからだ。


「はい、授業を始めるよ」

 眼鏡の髭面教師が教室に入ってきたところで、カリーネの机の周りに集まっていた日立は散り散りになって自席についた。髭面教師はちらっとカリーネに視線を向けたが、まるでカリーネという学生が随分前から存在していたかのように、授業は進んでいく。


 魔導具士養成学校で教える内容は、魔導具の基本的構造から。そして、安全設計、寿命問題、環境問題、人々の生活へ与える影響等、多岐にわたる。

 独学で魔導具の構造を学び、なんとなくこんな感じでの設計をしてきたカリーネにとっては、やはり他人や教科書から学ぶことというのは、新鮮だった。

 授業はお昼の前に二コマ行われる。一コマは一時間半。ここの学生は仕事を持っている者が多いから、昼前の授業が終われば帰り、そのまま仕事に向かうらしい。カリーネの場合は、仕事といってもハイケの工房で好きにしているだけなので、まずは学校で学ぶことを優先されている。

 昼前の二コマの授業が終わり「またな」と、皆、カリーネに手を振って帰宅していく。どうやら、昼食は自宅でとるらしい。


「カリーネ」

 リュックに教科書をつめていたところで、名を呼ばれた。

「あ、ラーシュさん」

 珍しく名前で呼ばれたため、その声の主がラーシュであったことに気付かなかった。


「飯、食いに行こう」

 誘われてしまった。そういえばこの学校には食堂があると言っていたような気がする。


「ああ、カリーネはラーシュと知り合いだったのね」

 まだ教室に残っていたアグネスが二人を交互に見つめる。


「アグネスさんとラーシュさんも知り合い?」

 よいしょとリュックを背負ったカリーネが尋ねた。


「そうね。ラーシュはこの学校では有名人だから」


「ある意味、アグネスも有名人だな」

 ラーシュがくすり笑えば、アグネスはジロリと睨む。


「ラーシュ。私の可愛いカリーネをいじめないでよね」


「いつから君の可愛いカリーネになったんだい?」

 ラーシュはカリーネの手を取ると、すっと引き寄せた。


「残念ながら、カリーネは俺とこの後約束があるんだ」


「さすがラーシュ。手が早いのね」


「誤解を招くような発言はやめていただきたいな」


 カリーネ行くよ、とラーシュはカリーネの腕を取った。


「カリーネ、また明日ね」

 アグネスがひらひらと手を振って教室を出ていく、カリーネとラーシュを見送っていた。

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