表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
終章 異世界最強編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

327/330

第88話 ~ オレは不可能という文字が嫌いだ ~

終章第88話です。

サブタイトルの台詞が懐かしい……。

 宗一郎は天に向かって腕を伸ばした。

 ふわりとスーツの裾が浮き上がる。

 膨大な魔力が赤く可視化し、光を帯びた。


 さっと手を振る。


 レーザー光線のように魔法陣が、中空に浮かび上がった。

 すると、鈍色の雲を呼び込む。

 辺りは真っ暗になった。

 風が出てきて、ローランの白い髪が揺らす。

 急に温度が下がり、ついに稲光が閃いた。


「ひぃ!!」


 ラフィーシャは悲鳴を上げる。

 雷が怖かったのではない。

 それが、勇者の怒りを表しているように思えたからだ。


 やがて宗一郎は叫ぶ。

 力強く。


 遠い異世界――。


 オーバリアントに轟くほどに。



「出でよ!! 我が契約者たち!! 69の悪魔よ!!」



 落雷が振ってきた。

 その数は69――。

 同時に雷光の影に隠れて、異形のものが中空に現れる。


 蛇、牛、羊頭、蛇女、蜘蛛、犬、百足、隠者、騎士、貴族、王、審判……。


 すべて人間と異なる姿。

 無個性なものは1匹もいない。

 己を主張し、見上げるものに恐怖を振りまいていた。


 ゴエティアの悪魔。

 世に言うソロモン王が使役した72柱の悪魔たち。

 うち3体を欠いたすべての悪魔が、現代世界に集結していた。

 これは、()のソロモンが使役してから、初めてのことだ。


 悪魔たちが降りてくる。

 宗一郎の周囲を囲み、やがて傅いた。


 1人が進み出る。

 オールバックに、丸縁の眼鏡をかけた男。

 一見優男だが、三白眼は血を注いだように赤く、少し口を開けば、獰猛な牙が見えた。

 大きな蝙蝠羽を畳み、改めて主人に誠意を示す。


「契約により、参上しました。現代のソロモン王――いえ、杉井宗一郎様。して、我ら悪魔をすべて呼び出し。如何な命をお下しになるのでしょうか?」


「72の軍団を率いる王にして、七罰の『色欲』を司りし魔王アスモデウスよ」


「はっ!」


「お前たちの王ベルゼバブ、クローセル、そしてフルフル――――」


 宗一郎は一瞬、ぐっと奥歯を噛んだ。

 いまだ癒えぬ悲しみを押しつぶすと、言葉を続けた。


「貴様らの同胞である3体の悪魔は、異界の地に契約者を守るために散った。その元凶があれだ――」


 ラフィーシャを指差す。


 澄ました顔で主の言葉に耳を傾けていた悪魔達の顔色が変わる。

 それは殺気となり、空気に混じる。

 幾分温度が下がったような気がした。


 敏感に察したのは、ラフィーシャだ。

 さっきから逃げようとしているのだが、うまく力が入らないらしい。

 地面の土を掻くだけで、1歩も進んでいなかった。


「お前たちにも含むところはあるだろう。あれを贄とする。お前達の好きにするがいい」


「恐れながら申し上げます、我が主。ベルゼバブ、クローセル、そしてフルフル。その3体は主を守り、契約を果たしただけのこと。我らに含むところはありません。どうかの御身の欲望のままに、お命じください」


「…………そうか。3体を失ったのは、俺の責任でもある。すまない。至らない契約者で」


「何を仰いますか、主。あなた以上に、純粋に磨かれた魂はないでしょう」



 『どうかご命令ください。我が主――。この者を倒せと!!』



 悪魔は声を揃えた。

 ビリビリと空気を振るわせる。

 嵐を呼び込み、風が渦を巻いた。


 悪魔には、明確に感情と呼べるものはない。

 そもそも区別というものがないのだ。


 だから、悲しいことを楽しいといい。

 苦しいことを嬉しいという。

 それは、人間には理解しがたいものだった。


 しかし、今ならわかる。

 宗一郎と悪魔たちを繋ぐ魔術的な繋がり。

 相互に受け渡される魔力の流れで、宗一郎は悪魔達のすべてを汲み取った。


 怒りだ。

 悪魔達は、静かに憤怒していた。


 それを受け止めるように、1度宗一郎は瞼を閉じる。

 悪魔達の怒りが混じった空気を大きく吸い込んだ。

 やがて黒瞳を開く。


 手を掲げ、レベル1の勇者は告げた。


「我が悪魔よ!」



 裁きの鉄槌を与えよ!!



 『かしこまりました』


 悪魔たちは一斉に立ち上がる。

 ふわりと中空へ浮いた。

 地べたで這いずるラフィーシャの上空へと位置を移す。

 異界の女神を睥睨した。


「皆の者、偽槍(ぎそう)を持て!」


 アスモデウスの号令の下。

 悪魔たちは手を掲げる。

 暗雲から落雷が落ちると、その手に漆黒の槍が握られた。


 偽槍ロンギヌス……。


 神となった聖人の権能を破壊した魔槍。

 悪魔が救世主を殺すために誕生した一振りだ。

 まさしく亜人でありながら、神となったラフィーシャにふさわしい裁きだった。


 細く鋭い槍が脈打つ。

 それは極限に絞った筋肉を思わせた。


「終わりだ。ラフィーシャ……」


「あ……。あ……。負けだ! 私の負けだ! 魔術師――いや、勇者!」


 女神は泣き叫ぶ。


 額に汗を滲ませ、口から涎を垂らし、目からは涙が溢れていた。


「許してくれ! なんでもいうことを聞く。そうだ。お前に、神の権利をやろう。ゲームマスターとしては、オーバリアントに君臨するがいい。いや、この世界をゲーム化するのも構わない。とにかく……。とにかく私を許してほしい」


「ダメだ……。すでにお前は、許しを請う一線を越えている」


「な、なら――」


 ラフィーシャはローランの方を向いた。

 剥き出した瞳は、真っ赤に充血している。

 まるで1本の蜘蛛の糸に群がる亡者を思わせた。


「頼む。王女ローラン。おま――あなたから説得してくれ。王女の声なら、勇者に届くはず……」


 今度は、王女に懇願する。


 ローランは悲しそうな顔を浮かべた。

 同情的な表情に、一瞬ラフィーシャは期待を膨らませる。

 だが、その答えは「NO」だった。


「ごめんなさい、ラフィーシャ。いくら私でも、今の勇者を説得することは出来ない」


「じゃ、じゃあ! わ、私は死ぬのか。終わるのか!? このラフィーシャ様が! オーバリアントの神が……。異世界に到着早々! 死ぬというのか!!」


「言ったはずよ、ラフィーシャは。この世界はね。オーバリアントよりも、残酷な世界なの。あなたは、この世界に来るべきではなかった。あなたの故郷――エルフの人たちと、ひっそりと静かに暮らすべきだったのよ」


 ローランは瞼を閉じる。

 祈るように。


「さようなら。ラフィーシャ。異界の女神。せめて私の記憶の中にいさせてあげる」


「いやだぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああっっっっっっ!!!!」


 ラフィーシャは絶叫する。

 だが、現代世界の中で、その声は空しく響くのみだった。


 宗一郎は手を掲げる。


「ラフィーシャ……。覚えておけ。オレは不可能という文字が嫌いだ」


 それは杉井宗一郎の信条の1つだった。


「だが、1つだけ不可能なことがあった。喜べ。お前が初めてだ」


「な、なに……?」



 お前を許すということだ……。



 手を払った。


 偽槍ロンギヌス――!!


 69本の槍が、最高の悪魔達の手から離れ、そして放たれた。

 細い槍は真っ直ぐラフィーシャに向かう。

 華奢な女神の肢体を貫いた。

 真っ赤な血が噴き出し、その瞳からも鮮血が流れる。


 心臓も、肺も、骨も、内臓も、手足も……。


 すべてを貫かれていた。

 それでも執念深いダークエルフは生きている。

 強烈な痛みを全身に浴びながら、ぎゃあぎゃあと鴉のように喚いていた。


 薄くボケた視界に、何か黒い影が映る。

 拳を強く握っていた。


「アガレス……。かつての力天使よ。お前の打ち破る力を、オレに示せ!」


 赤光が閃く。

 勇者の怒り。

 魔術師の憤怒。

 そのすべてを拳に載せ、宗一郎は放った。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!」


 断末魔の悲鳴が鳴り響く。


 瞬間、宗一郎の拳は、綺麗に残っていたラフィーシャの顔面を貫いた。


 悪魔の力。

 聖者を貫く偽槍。

 そして、勇者の拳。


 この現代において、最強と呼べる一撃が女神に突き刺さる。


 瞬間、ラフィーシャはパッと弾けた。

 血も肉もない。

 ただ光を飛び散り、女神は消滅した。


 宗一郎は拳を引く。


 顔を上げ、暗雲の空を臨んだ。


「終わったぞ、淫乱悪魔」


 その声は、寂しく現代世界に響くのだった。


あと2話はエピローグになります。

ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作はじめました! よろしければ、こちらも読んで下さい。
『転生賢者の最強無双~劣等職『村人』で世界最強に成り上がる~』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ