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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
終章 異世界最強編

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第72話 ~ お前を倒すものだ ~

終章第72話です。

 ベルゼバブとも別れ、宗一郎は1人最上階を目指し、螺旋階段を上っていた。


 道程は思っていた以上に順調だ。

 多少モンスターの抵抗があったが、問題なく切り伏せている。

 だが、必ず壁ややってくるだろう。

 新女神というラスボスがいる限り、安心することは出来ない。


「……ッ」


 宗一郎の顔が時折歪む。

 一瞬、階段に足を取られそうになったが、なんとか立て直した。

 そのまま進み続ける。


 フェルフェールの瞳を使わなくともわかった。

 この城の階下で、悪魔たちが、今もなお激戦をくぐり抜けている。

 その度に、宗一郎の魔力は微量ながら失われていった。

 日常行動ならともかく、戦闘ともなれば多少の魔力が必要になる。

 今の宗一郎にとって、その多少(ヽヽ)が大問題だった。


 魔力が底を着きかけていることは、己自身が一番わかっている。

 さらにいえば、新女神に対する勝率がどれほど低いかも理解している。

 おそらく奇跡を望まなければならない確率だろう。


 宗一郎は負け戦が嫌いだ。

 これまですべて計算と計画の下で動いてきた。

 現代世界での国や組織、オーバリアントのモンスター、あるいは強敵たち。

 運に頼らず、自分の思い描いたプランで勝利を収めてきたつもりだ。

 予想外だったのは、プリシラの死以外だっただろう。


 だが、今回ばかりは運が必要だった。


 自分らしくない、と自分に対して唾棄したくなる。

 それでも動かなければならない。

 魔力が底を着いてからでは、ラフィーシャは止められないからだ。


 ただ一撃にかける……。


 残り滓の魔力をフルに使い、新女神を打倒する。

 今はこれしかない。


 螺旋階段が終わりを告げる。

 今度は長い廊下だ。

 思っていた構造よりも、遙かにこの城は広い。

 おそらく呪術の認識操作によるものだろう。

 ラフィーシャの仕業ではなく、城を造ったとプリシラによるものだ。

 おそらくこの城を、ラスボスと位置づけ自分なりのアレンジを加えたのかもしれない。


 異世界をゲーム化しようと考えた女神が考えそうなことだった。


「ふっ……」


 思わず笑みがこぼれる。

 が、和んでいる暇などない。

 宗一郎は、その旧女神に導かれるように奥へと進んだ。

 ローラン――黒星まなかがいると思われる部屋は、この先だ。


 宗一郎はつと足を止める。


 横のドアが気になった。

 妙に大きく頑丈な扉がそびえている。

 呪術的な封印が施されているらしい。


 先を急ぐのが最善とわかっていても、妙に心が騒ぐ扉だった。


「これぐらいなら……」


 宗一郎は持っていた道具袋から手縫いされた陣が描かれた布を取り出す。

 扉に貼り付けると、呪文を唱えた。

 多少呪術の心得はある。

 プリシラクラスとなると解呪は難しいが、この扉にかかったものなら、問題なく開くことができそうだ。


 やがて重苦しい音を立てて、扉が開いた。


「ふん……。封印者がヘボで助かったな」


 おそらくラフィーシャが見よう見まねで造った呪術だろう。

 すべてを解明したといっているようだが、呪術に関して警戒する必要はなさそうだ。


 割と広い部屋だった。

 天井も高く、上階まで吹き抜けている。

 そして、そこに鎮座していたのは、中規模の魔導機関だった。


「動力装置か……?」


 いや、そうではない。

 それにしては、小さすぎる。

 これ程の大きな城を浮かせる技術だ。

 例え予備だとしても、かなりの大きさになるはず。


 とはいえ、何かの兵器とも思えない。


 脅威がないならば、捨て置き、とっとと前進することが肝要ではあるのだが、宗一郎が立ち止まり首をひねったのは訳がある。


 どこかで見たような気がするからだ。

 しかし、それはどこで見たのか思い出せない。

 【太陽の手(バリアル)】の現物を見た時かと思ったが、それも違った。

 少なくともオーバリアントで見たものの中に、類似するものがない。


 だとしたら……。


 ――待てよ。


 宗一郎は目を細めた。

 やがて呟く。


「使えるな……。これは――」


 もしかしたら、これは逆転の一手になるかもしれない。


 そっと扉を閉め、宗一郎は前進する。

 まなかがいる部屋までもう少しというところで、エンカウントした。


 モンスターにではない。


 女神――ラフィーシャだ。

 本来なら、緊張し、顔を強ばらせる場面だった。

 だが、宗一郎は思わずといった様子で、顔を綻ばせる。


「随分と俺の部下に痛めつけられたらしいな」


「黙れ……。勇者」


 ラフィーシャは満身創痍だった。

 右半身が焼けただれ、他にも手傷を負っている。

 体力ゲージこそフルだが、リアルダメージはかなりといっていいほど、削られていた。


 階下であったことは知る由もないのだが、炎の魔法による直撃、爆風による衝撃と熱によるものだということは、理解できた。


 弱っていることは間違いない。

 それでも彼女の有利はまだ動かないだろう。

 この程度の負傷で鈍る女神なら、最初から苦労はしていない。


 むしろ、血に爛れた瞳は怒りに燃えさかっていた。


「1つ聞いておこう。まな――いや、ローランはこの先にいるのか?」


「冥土の土産に教えておこうかしら。そうよ。大事なお姫様はこの先の部屋で待っているわ」


「そうか。ならば――」


 宗一郎は【ピュールの魔法剣】を引き抜いた。

 切っ先を目の前の敵に向ける。

 武器を向けられているにも関わらず、ラフィーシャは笑った。

 カッと開いた歯は粘ついており、糸を引く。

 とても女神の微笑みとは思えない醜悪な表情をしていた。


 先手を打ったのは女神だ。

 手を突き出すと、同時に詠唱する。


 【鬼神爆滅(イービル・ボム)】!!


 指向性爆裂魔法。

 指定された空間内に強烈な爆発を生み出す魔法だ。


 途端、宗一郎の目の前が紅蓮に染まる。

 空気が圧縮され、異常な熱量を持つのが見えた。


 【千歩(カット・ゾーン)】!


 咄嗟に空間系移動魔法を唱える。

 速度強化系魔法よりも扱いが難しいが、空間内の時間に干渉されず移動可能な魔法だ。

 一瞬、多次元宇宙を渡るため一切の物理法則が通じない。


 どぉぉぉおおおおおおっっっ!!


 大爆発が廊下に響き渡った。

 爆風が奥まで暴れ回り、壁や天井が軋んだ。


 そんな中、宗一郎は回避に成功していた。

 速度強化系であれば、爆風の干渉を受けたかもしれない。

 この世界で勇者と言われる魔術師は、そこまで考え尽くしていた。


 さらに見事、女神のバックを取る。


 【獣進連撃(ライオン・アタック)】!!


 【ピュールの魔法剣】が閃いた。

 一気に間合いを詰める。

 獣王の牙のように荒々しい連撃を放った。


 一時的に狂化状態となり、連撃突進するスキル。

 数秒間の間、魔法が使えなくなるが、攻撃力が最大で5.5倍加算される。


 ラフィーシャの対応は速い。しかし、緩やかだった。


 振り返ると、手を広げる。

 笑みを浮かべた。


 【物理攻撃無効アタック・プロテクション】!!


 文字通り、物理攻撃を無効にする魔法。

 レベルに応じて、持続時間は決まっているが、あらゆる物理攻撃を無効化できる。

 当然、スキル系の防御にも使える。

 問題は手を広げていなければ、発動できないことだ。


 ラフィーシャは連撃を受けきる。

 攻撃無効の持続時間が、宗一郎の狂化状態を上回った。


 一旦引くと思われた宗一郎だが、手を掲げる。


 【雷霆の陪審(トール・ハンマー)】!!


 単体系の雷属性最強魔法を唱えた。

 雷の轟音が城内でも響き渡る。

 1拍遅れ、青白い光が女神を貫いた。


「ぎゃあああああああああ!!!!」


 女神の悲鳴が響き渡った。

 直撃――。

 薄い灰色の肌を抜き、骨が透けて見えるほどの電撃を食らわせる。


 だが、宗一郎は気付く。

 ラフィーシャの上にある体力ゲージがないことに。


「【二重化身(ダブル)】か……」


 ぞわりと気配がする。

 振り返った瞬間、剣を薙いだ。

 背後に立っていたラフィーシャを見事に切り裂く。


 それでも女神は笑っていた。

 とても嬉しそうに。


 鮮血を垂らしながらラフィーシャは、口だけを動かした。


「いいえ。【三重化身(トリプル)】かしら」


 声が降ってきた。

 顔を上げると、赤の瞳を輝かせた女神が天井に貼り付いていた。


「にひひひ……」


 【鬼神爆滅(イービル・ボム)】!!


「しま――」


 宗一郎は【千歩(カット・ゾーン)】を唱える。

 だが、半瞬遅かった。

 すでに頭上では爆発の華が開いていた。


 目の前が真っ白になる。


 爆風に圧殺されると思いきや、宗一郎は別のところに立っていた。

 白昼夢かと思ったが、違う。

 永遠と思えるような天空城の廊下が奥まで続き、そこには女神もいた。

 遅れて爆風が吹き抜けると、宗一郎の髪を乱す。


 五体は無事だ。

 体力ゲージもほとんど無傷だった。


 だが、一体何が起こったのかわからなかった。


「何やってんだよ。相変わらず、この世界の戦闘に慣れてないようだな。きちんと相手の力量を考えれば、【三重化身(トリプル)】を使ってくるなんて予想が出来るだろう」


 声は背後から聞こえた。

 慌てて振り返った宗一郎は、さらに驚く。


「貴様は!?」


「なんだ? 俺様の顔を忘れたのか、勇者様よ」


 炎のように伸び上がった髪。

 小生意気そうにつり上がった赤い瞳。

 ゴールド製のフルプレートを纏い、背中には如何にもな黒のマントが翻っていた。


 鼻に置いた小さな眼鏡を釣り上げる。

 その手にはめられた指なしグローブは、どことなく中二病的なイメージを膨らませていた。


「何者かしら……」


 ラフィーシャは天井から降りてくる。

 招かれざる客を、目を細めて威嚇した。


「お前が新女神ラフィーシャか。光栄だね。早速、女神に拝謁できるなんてよ」


「あなたを呼んだ覚えはないのだけれど」


「なら覚えておけよ、ダークエルフ……」



 俺の名前はミスケス・ボルボラ。


 お前を倒すものだ。


最強のかませ犬登場です!

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