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その魔術師は、レベル1でも最強だった。  作者: 延野正行
終章 異世界最強編

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第8話 ~ メタル的なヤツッスか? ~

終章第8話です。

よろしくお願いします。

 芝居がかった動きだった。


 ドレスについた大量のフリルが舞う。

 ブローチの中で腰を下ろすと、アフィーシャは微笑んだ。


 声を聞いた者の反応は、四者四様……。


 宗一郎は真一文字に口を結び、ライカは親の仇のように睨む。

 ブローチの持ち主であるフルフルはキョトンとして、目線を下に向け、ローランは軽く首を傾げた。


 満を持し、ダークエルフは囁いた。


「あなたたちは、ダークエルフについて何を知っているのかしら?」

「何ぃ?」


 宗一郎の眉間に皺が寄る。

それは横で聞いていたライカも同様だった。


「世界の災厄……。それで十分なはずだ!」


 細剣を持っていれば、おそらくブローチに向かって突き立てたであろう。

 それほどライカの言葉には、怒気が含まれていた。


「では聞くは……。何故、ダークエルフは世界を滅ぼしたがる? 人間を狂わせ、社会を破壊しようと動くのかしら」

「それを我らが知ってどうなる? 貴様らは多くの国の指導者を惑わし、滅びへといざなった。さらに大量破壊魔導兵器(バリアル)なるものを作り、我らマキシアの兵も含め、人間を殺した。その事実だけで十分なはずだ」

「待つッスよ、ライカ。落ち着くッス」

「しかし!」


 今にもブローチに飛びかかりそうなライカを、持ち主がいさめる。

 フルフルの言葉に、少し勢いは削がれたものの怒気を収める気配はない。


 アフィーシャをブローチの中に閉じこめて、もう数ヶ月ほど経つが、ライカはこの判断について、まだ納得してなかった。

 直接手を下してはいないとはいえ、マトーを惑わし、父カールズを殺した首謀者は紛れもなく、彼女に違いないからだ。


「アフィーシャたん。つまり、こう言いたいんスか? ダークエルフには、世界を滅ぼすたる理由があるかしら(ヽヽヽ)――と」

「理由というなら、我らダークエルフに秘められた破壊衝動で十分。わたしがあなたたちに知ってもらいたいのは、ダークエルフの“歴史”かしら」

「“歴史”だと?」


 ライカが眉根を寄せ、一歩踏み出る。

 正直にいうと、アフィーシャの声を聞くだけでも耐えられない。

 その上、物知り顔でダークエルフの“歴史”を語ろうというのだ。

 それが一体――何に繋がるのかは知らない。ただライカの胸中を掻きむしるしか効果がないものだった。


 その彼女を、宗一郎は制す。


「そういうからには、今ここで語ってくれるのだろうな?」

「宗一郎! 耳を貸す必要などない!!」

「ライカ、お前の気持ちはわかっているつもりだ。しかし――」

「しかし、なんだ!? ダークエルフと手を取り合えというのか? わかっているのか、宗一郎。この者は先ほど大演説を打ったラフィーシャの妹だ。加えて、我が父、カールズ……」

「ああ。だから、オレたちは知る必要があるんだ」

「どういうことだ?」

「ライカ……。カールズ陛下の寝室に、陛下ご自身が描かれた絵を見たことがあるか?」


 唐突な話題の振り方に、ライカは狼狽する。

 10代の皇帝はただ頷くしか出来なかった。


「あ、ああ……。父は絵を描くのが好きだった」

「ならば、マキシアに戻った時、改めて絵を精査してみるがいい」

「……それがどうしたのか?」

「今、言えるのはそれだけだ。あと、ライカがそれを見て考えてくれればいい」

「…………」


 宗一郎はそっとライカの頬を撫でる。

 少し気持ちが落ち着いたのか、赤みのさした顔が幾分引いていく。


 やがて、宗一郎はダークエルフに向き直った。


「お前の言うとおりだ、アフィーシャ。確かにオレたちはダークエルフについて知らなさすぎる」

「さすがは勇者様かしら」

「だが、解せん……。これまでお前はそのことについて口を閉ざしてきたように思う。ライーマードの牢屋の中でも、お前はダークエルフの本質について決して口外しなかった。何故、今なのだ?」


 口元に手を当て、アフィーシャは微笑む。


「ラフィーシャをあなたたちに見つけてほしいから――かしら」

「それはお前に利害があることだからか?」

「当然かしら――と言いたいとこだけど、半々かしら。正直に言えば、わたしはラフィーシャの滅亡を望んでいる」

「姉なのにか?」

「わたしたちダークエルフに、人間のような姉妹愛ないわ。親子の情ですら、皆無に等しいのに」

「じゃあ、なんだ?」

「あの子に、ダークエルフの大望を達成されるのが嫌だから」

「子供みたいな理由ッスね」


 フルフルは肩を竦め、やれやれと首を振った。


 ふざけているように見えて、アフィーシャが真剣に言っていると、宗一郎は感じていた。

 そもそも結束する意識があるのなら、とっくに彼らはそうして、世界を滅亡させていただろう。


 いつかプリシラから聞いた話では、過去にそういう例があったそうだ。それもお互いの利害が一致していたからだろう。つまり、運命共同体というよりは、各々が利用しあう関係性だったに違いない。

 人間的な集団意識とはかけ離れており、プリシラがそれらの野望を崩せたのも、意識の差がはっきりでたからかもしれない。


「わかった。では、話せ」

「ここではちょっと……。というよりはね。あなたたちを案内したいかしら」

「案内?」


 話の空気が変わるのを敏感に察する。

 握った拳に、自然と力が入った。


「そんな構えなくてもいいかしら。これはあなたちの利害にも一致する。何せ、その場所には、膨大な経験値を持ったレアモンスターがいるかしら。レベル上げをするなら、打ってつけの場所よ」

「レアモンスター!!」


 瞳の中にハートマークを浮かべる。

 まさしく目の色を変えたのは、宗一郎の契約悪魔だった。


「マジッスか! アフィーシャたん! あれッスか? メタル的なヤツッスか? それともキング的な? もしくは……」

「落ち着け! フルフル」

「レアモンスターと聞いて、落ち着いていられないッスよ! 良い狩り場だったりしたら、フルフルが運営している攻略サイトにアップしなきゃならないッス(使命感)」


 ――誰が見るんだ、そのサイト!!


「そもそもお前、とっくにスマホが壊されていることを忘れているだろ」

「は! そうだった! そもそも、もうゲームを何日どころか何ヶ月もやってないッス! どうしてくれるんスか! ご主人! フルフルからゲームが抜いたら、何も残らないッスよ」


 ――確かにな。性欲の強い普通の(ヽヽヽ)悪魔でしかないものな。


「というわけで、行きましょう! 一刻も早く! ご主人並に早くイクッス! ハリーアップ! プッシプッシ!!」

「さりげなく卑猥なネタを入れるな! この淫乱を悪魔め!」


 こほん、と咳を払う。

 ともかく話題を元に戻した。


「で、どこへ案内してくれるのだ?」

「ダークエルフの島といわれている場所よ」


「「「!!?」」」


 話を聞いていた4人の人間すべてが固まった。


「名前は【エルフ】……。シルバーエルフや我々ダークエルフの語源となった島よ。だから、エルフのルーツを知るには打ってつけの場所かしら」

「そ、そんな……。敵の懐に潜り込むようなものではないか?」


 比較的落ち着いていたライカも、声を荒げた。


「心配しないで。そこにいるダークエルフは割と温厚よ。といっても、わたしやラフィーシャよりマシであって、人間に対する敵愾心はそれなりにあるとは思うけどね」

「…………」


 宗一郎は黙考する。


 アフィーシャは学術的な理由を教えたいようだが、罠という可能性も大いにある。

 温厚とはいうが、ライカの言うとおり敵の懐であることは間違いない。

 出方がわからない以上、安易に決断できなかった。


「私は行きたい!」


 元気な声が響く。

 振り返ると、ローランが細い手を挙げていた。

 子供のような無邪気な笑顔が貼り付けている。


「行きたいって! わかってるのか、まなか姉! ダークエルフの本拠地なんだぞ。何が起こるか――」

「そう。何が起こるかわからない。だから、何が起こるのか確認しにいくのよ。そういうことを言いたいのでしょ? ダークエルフのお嬢さん」

「え?」


 妙に毒気の抜かれた話し方に、宗一郎はたじろぐ。

 彼女が何を言いたいのか、理解出来なかった。


 しかし、ダークエルフには通じたらしい。

 長い睫毛を下ろし、瞼で頷いた。


「宗一郎くん、陛下……。彼女の言うとおりよ。私たちはね。ダークエルフというものを知らなさすぎる」


 そうして話は、アフィーシャの最初の言葉に戻っていった。


「【エルフ】にいるダークエルフと、ラフィーシャ、そしてアフィーシャ。私たちはすべてひっくるめて、ダークエルフという。でも、そんなどんぶり勘定じゃ、一生ラフィーシャを理解できない」


 ローランの言葉に、宗一郎は深く頷き、同意した。


「それは恐らく……。私たちがダークエルフの本質というものを理解していないことに他ならない。それを理解しないうちは、私たちは彼女(ラフィーシャ)に追いつけないと思うの」


 パチパチと手を叩く音が聞こえる。

 音の出所は、フルフルが胸に掲げるブローチの中からだ。


 アフィーシャが笑みをたたえながら、拍手を送っていた。


「正直変わった娘だと思っていたけど……。理解してくれる人がいて助かるかしら。概ねその通りよ。結果的にあなた達はラフィーシャに追いつくことが出来るかもしれない」

「宗一郎くん」


 ローランは白い髪を乱し、振り返った。


 ――虎穴になんとやらか……。


「わかった。行こう」

「うん! それが良いと思う」


 満面の笑みで、ローランは判断を支持する。


「だけど、まなか姉はここに残れ」

「ええ! 私も行きたいわ」

「ダメですよ、王女」


 ライカも援護射撃(どうい)する。


「ラザール陛下はまだ病床の身です。今、あなたまでローレスを離れれば、民が不安に思います」

「そ、それはそうだけど……。王族の1人として、ダークエルフについて見識を広めることも重要だと思うわ」

「ダメだって、まなか姉。ライカの言うとおりだ。何があっても守る自信はあるが、もしものこともある。王を支えてくれ」

「…………」


 口をとがらせ、ローランは子供のように拗ねる。

 やがて「わかった」と小さな声で同意した。


「話はまとまったかしら」

「ああ……。オレたちは【エルフ】に行く」

「そう。じゃあ、案内しましょ。ダークエルフが住む島――」


 そしてはじまりの場所に……。


来週月曜に更新予定です。

よろしくお願いします。

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