第68話 ~ 手ぇ洗わないぞ、俺 ~
第4章第68話です。
よろしくお願いします。
【崩防の神秘】ガリスマ!
仕切り直しとなった2ラウンド目は、プリシラの【神秘】から始まった。
巨大な竜は大気の圧力に抗しきれず、翼と前肢を広げて仰け反る。
そこに――。
「アガレス……。かつての力天使よ。お前の打ち破る力を、オレに示せ」
宗一郎の拳に赤光が宿る。
すでにパズズの力を借りて跳躍し、その身は竜の顎の前にあった。
渾身の力を込めて、振る――。
オーガラストの顎を強打した。
もちろん、ダメージ判定はない。
さらにいえば、殺傷能力もない。
ただ――竜の巨体が右に流れる。
いまだ――!!
とは言わず、宗一郎は背後に迫っていたミスケスに振り返る。
アイコンタクトを送った。
冒険者最強は、眼鏡をぎらつかせ、待ってましたと言わんばかりに特攻する。
【闇の剣】ズフィール!
【光の剣】ラバーラ!!
両の手に【魔法剣】を解放する。
それを重ねる。
2つの力が混ざり合い、一槍のスピアとなす。
【獣迅突牙】!!
獣の名前にふさわしいスキル名を叫ぶ。
ミスケス自体が、巨大なスピアとなり、竜に肉薄する。
致命部位の首に突き刺さる。
さらに回転して、肉体を――いや、ダメージを抉った。
致命部位を狙ったコンボ付きの突貫攻撃。
竜は溜まらず悲鳴を上げる。
しかし、攻撃は止まない。
【五級風系魔法】オイフ・アヴィーラーダ!!
もはやそれは【風】と称するには生やさしい。
密閉された空間に突如として現れたのは、巨大な竜巻。
竜の真下から現れると、たちまち氷塊ごと巻き上げ、包み込む。
たちまち周りは、嵐となった。
巨体が浮く。
水中に落とされた赤子のように前肢と後肢をばたつかせる。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
これまで一番大きな吠声……。
竜巻の中で、夥しいほどの赤い光点が光った。
みるみるオーガラストの体力を削られる。
「すっげ……」
マントが風に飛ばされそうになりながら、ミスケスは呟く。
冒険者最強が驚くのだから、相当の技量と魔法なのだろう。
確かに圧巻の光景だった。
竜巻が止む。
ふと支えを失ったかのようにオーガラストは、腹から地面に叩きつけられる。
震動と轟音がボス部屋内に響く。
大量の砂煙を巻き上がった。
崩しから、大技連打――。
しかし。
「まだよ!!」
プリシラが叱咤する。
そう――。
まだオーガラストは倒れていない。
風系の軽い魔法で、砂煙を排除。
半分気絶しているオーガラストの姿が現れる。
容赦はしない。
ミスケスと宗一郎が、それぞれ連撃を叩き込む。
用意が出来たところで、プリシラが五級の魔法が突き刺さる。
急造のパーティーとは思えないほど連携……。
間断なく行われる――もはや蹂躙といっても問題ない――攻撃の数々は、他の冒険者のダメージポイントを大きく上回る。
第2ラウンドを初めて10分。
すでにダメージは10万ポイントを超えようとしていた。
「くっそ固いわね!」
思わずプリシラは唾棄する。
顔をしかめる女神の横に、連撃を叩き込んだミスケスが降り立った。
「悲観するのは早いぜ、プリシラちゃん」
「なに?」
するとミスケスは指をさす。
顎門を振り上げ、雄叫びを上げるオーガラストの真上。
ビビットカラーの鮮やかな緑色のバーが見えた。
「体力ゲージか?」
竜の注意を引きつつ、宗一郎はデジタル的な表示を睨む。
「おうよ。ボスの【体力】が20%を越えたらから現れたんだ」
嬉々として叫ぶ。
「どういうことだ?」
「そんなことも知らないのかよ、勇者様は」
「たいていのモンスターには、分析系の神秘を使わないでも体力ゲージだけは見えるでしょう。でも、ボス種には体力ゲージがわからないよう設定してあるの」
「なるほど。一定の【体力】を越えると、それが見えるようになるということか」
「そういうことよ」
つまりは、あともう1歩まで来ている。
そして重要なのは、オーガラストを倒せるということ。
レベル戦で、だ。
少し感慨深くなる。
同じ場所で、400名もの冒険者が、いつ終わるともわからない消耗戦を挑み、結局勝利することが出来なかった。
そのメンバーがここにいないことは残念だ。
が、命を落とした者たちには、最高の手向けになるだろう。
「宗一郎!」
プリシラが叫ぶ。
よそ事にとらわれていたからではない。
まして、宗一郎がミスしたわけでもない。
突然、オーガラストの指向が宗一郎ではなく、プリシラの方を向いた。
当人の顔に汗と苦々しい笑みが浮かぶ。
「20%を切って、戦い方の指向性がかわったのかしら」
「それってプリシラちゃんが恨みを買ったってことか?」
「たぶん……。私が一番ダメージを与えてたからね」
モンスターのある特性として、攻撃力の高い冒険者を狙う傾向にある。翻って説明すれば、自分にダメージをもっとも多く与えた者を狙うのだ。
「どうする? 俺様は挑発系のスキルなんて持ってないぜ」
「同じく」
「勇者様は……聞くだけ無駄か」
「アイテムは?」
「ソロプレイヤーなもんで持ってない」
「買い込んでおけば良かったわね」
レベル戦に慣れている2人は、こそこそと話す。
その間、宗一郎はオーガラストに迫る。
死なない程度にアガレスの力を叩き込む。
「くそ! ダメだ! 注意を引かない!!」
「宗一郎! 殺したらダメよ!!」
「とはいうが――」
オーガラストの顎門が赤く光る。
「私がやるわ!」
【五級雷精魔法】プラスティア・ブラーチ!
再び極太の稲妻が竜に落とされる。
無数の赤い光点が光る。
シューと音を立て、白い蒸気が黒い肌から立ち上った。
オーガラストは止まる。
――かに見えた。
口内が赤黒く染まる。
血のような赤い目は死んではいなかった。
「まずい!」
プリシラは歯がみした。
魔法の連打するには、若干のタイムラグが必要になる。
「こっちだ!」
ミスケスが手を引く。
だが、オーガラストはプリシラを指向した。
「来た!!」
シャッンンン!!
鋭い棒状の炎息が吐き出される。
数度の爆発と、固い岩盤を吹き飛ばす。
ミスケス、プリシラ、そしてさらに助けに入った宗一郎が、爆風に吹き飛ばされた。
なんとか直撃を免れたが、3人の頭や身体に小さな瓦礫が覆い被さった。
「おい。生きてるか、お前たち?」
はじめに声をかけたのが、宗一郎だった。
「ああ、なんとかな……」
「まあね。気分は最悪なんだけど」
「命あっての物種だぜ、プリシラちゃん」
「ええ……。でも、そんなことよりあんたたち、どいてくれない?」
男2人はプリシラに覆い被さるようにして倒れていた。
そして、それぞれの手は女神の薄い胸に置かれている。
「どこ触ってんのよ、あんたたち……」
オーガラストもかくやというほどの怒気が放たれる。
驚いて、宗一郎とミスケスは離れる。
「す、すまん」
「わざとやってんじゃないでしょうね?」
プリシラも起き上がり、細い身体を隠した。
「えへ……。プリシラちゃんのささやかなおっぱい触っちゃった」
えへ……。えへへへへへ……。
ミスケスは笑う。おっぱいの感触を脳裏の隅々まで記憶するため、手をにぎにぎと動かした。
「手ぇ洗わないぞ、俺」
「なに気持ち悪いこといってんのよ!!」
スコン、と杖で叩く。
「おい! コントをやってる場合じゃないぞ!」
宗一郎は振り返る。
倣うように、2人もオーガラストの方を向いた。
「な――――」
絶句したのはプリシラだった。
突然、オーガラストの周りに穏やかな緑色の光が纏わりはじめた。
これを書いてる時に、そういえばミスケスって小さな眼鏡をかけてたんだと思い出し、
描写を入れるという。ぐだぐだですいませんm(_ _)m
明日も18時に更新します。




