第43話 ~ 老神父と聖女のイケない関係的な ~
第4章第43話です。
よろしくお願いします。
「あの……。どうしてマフイラ先輩は所長を調べているんですか?」
ポラスは尋ねる。
当然の疑問だった。
どう見ても、2人のアラドラへの印象は悪いものだ。
確かにアラドラの顔は、堅気には見えない。
だが、それを除けば、真面目なギルド職員だった。
2人が誤解しているなら、なんとしても解いておきたかったか。
2人は目配せする。
しばし目で会話をした後、フルフルはベッドに寝そべりながら、頷いた。
同じくマフイラも頷き、ポラスに向き直る。
「あなたを巻き込みたくないのだけど、ポラスだから信頼して話すわ」
「あ、ありがとうございます」
「他言無用よ」
「……は、はい」
そうしてマフイラは事情を話した。
アラドラという男が、【太陽の手】という兵器を使い、マキシアとウルリアノを隔てるチヌマ山脈を吹き飛ばそうとしていることを。
ポラスは呆然と聞いていた。
「嘘だ」
「事実よ。だから、あなたがいうアラドラの印象を聞いて、私たちも戸惑っているぐらいよ」
「ポラスくん……。王都からでも、あの光と煙は見えたんスよね」
「あ、はい……」
「どういう報道――というか、噂がされてるんスか?」
「あの後、王城からおふれが公布されて、新種のモンスターの攻撃だと。ただ王都の中にいれば、安全だから落ち着くようにって」
「やはり、王国が関与しているのかしら」
「いや……。でもその判断は早急ッスよ。パニックにならないように情報をあらかじめ限定しているとも考えられるッス」
「僕もそう思います。今のウルリアノ国王は仁君です。先代の暴君の爪痕がまだ色濃く残る状態で、マキシアとの戦争を誘発するような行動はしないと思います」
そうなのだ。
実は、ポラスが来る前に、マフイラとフルフルはウルリアノ王国の内情について聞き込みをしていたのだが、皆一様に今の国王を賞賛する向きがあった。
強制力は全く感じず、洗脳的な教育を受けた気配もない。
活気に満ちたこの王都を見れば、自ずと理解できる。
ウルリアノに来る前までは、好戦的な王国がアラドラを使って、国境の山を排除しようとしていると思っていたが、ここに来てその推理に無理があるような気がした。
「マフイラ……」
唐突に声をかけたのは、フルフルだった。
「思ったんスけど、ウルリアノがわざわざライーマードにアラドラを送り込んで、兵器をぶっ放す理由なんてあるッスかね」
「「……確かに」」
先輩後輩コンビは同時に頷いた。
「ウルリアノが戦争をしたい。もしくは先の戦争を見据えるために、チヌマ山脈を吹き飛ばすなら、そんな周りくどいことしないと思うッス」
「帝国側から兵器を撃たせることによって、戦端を開いたのは帝国にあると主張したいから……とか」
いや、それでは根拠が乏しすぎる。
そもそも一体誰に主張したいのかわからない。
戦争の正当性を振りかざすなんて、あまりにも無意味だ。
「あの……」
手を挙げたのは、ポラスだ。
「むしろ、この事件にウルリアノ王国が関与しているんでしょうか……」
その一言は、謎にさらなる深みをもたらすことになった。
重たい静寂と空気が、宿の一室に充満する。
マフイラは腕を組み黙考し、ポラスは室内の雰囲気に若干戸惑いながら、汗を拭っていた。
フルフルだけが、鼻歌を歌いながら、1人状況を楽しんでいるようだった。
「あの――」
と沈黙を破ったのは、ポラスだった。
「1つ忘れていた事がありました」
「なに?」
「今日、先輩以外にアラドラ所長を訪ねてきた人がいたんです」
「ちょっと! ポラス、そういう情報は早めに言いなさい」
「す、すいません。失念していました」
「それでその人、どうしたんですか?」
「もう在席していないと言ったら、帰っちゃいました」
「どんな人だったんスか?」
「えっと……。き、綺麗な人でしたね」
「へぇ……。マフイラよりもスか?」
「い――――」
「なんで言葉に詰まるのよ、ポラス」
ジト目で睨む。
ベッドで寝そべる悪魔は、「ししし」と笑った。
「ああ。でも、ちょっと気になったことがあって……。名前を一瞬間違えたんですよ」
「そりゃあ。名前を間違うぐらいは誰だって――」
「なんて間違えたんスか?」
フルフルは寝そべる体勢から起きあがり、胡座をかいた。
「えっと……。確か――」
ジェリフ、って…………。
マフイラとフルフルは顔を見合わせる。
同時に首を傾げた。
「恋人の名前と間違ったんスかね? それとも不倫相手?」
「綺麗な人なんだったら、アラドラの愛人とか?」
「アラドラ所長はそんな人じゃないですよ」
「アラドラって結婚してるッスか?」
「いえ。確か独身……」
「じゃあ、まあ……女の1人や2人は――。ねぇ」
「フルフルさん。なんで私の方を見て、同意を得ようとするんですか?」
「なんとなくッス」
カラカラとフルフルは笑う。
次いで、蝋燭の火を吹き消したように表情が暗くなる。
窓の側による。
カーテンの端を掴んで、隙間から外を覗き込んだ。
「フルフルさん?」
声をかけるが、金色の瞳は窓外に向けられたままだ。
日が落ちても、多くの人が行き交う歓楽街の路地。
その一角から、宿の方に視線を向ける人影が見えた。
「誰かいるッス」
「え?」
尋ね返す間もなく、フルフルは窓を開いた。
カーテンが舞い上がり、温い夜気が部屋に入り込んでくる。
「先に行くッス! 後からついて来るッスよ、マフイラ」
「え? ええ?」
マフイラも、ポラスもただ戸惑うだけだった。
フルフルは手を広げて、窓から飛び降りる。
ギョッとしながら、エルフの2人は窓枠に殺到した。
下を見ると、フルフルが露店の屋根に突っ込み、その反動を利用して路地に着地していた。
衆目を一身に浴びながら、気にする様子もなくフルフルは駆け出す。
その時、影が動いた。
フルフルに気付き、翻って逃亡する。
「あの人もしかして昼間の……」
「あなたが会ったっていう?」
「はい」
「追いかけるわよ!」
エルフ2人も部屋のドアを突き飛ばし、1階へと降りていった。
女は息を弾ませていた。
暗い裏路地を闇雲に駆け抜ける。
しかし、追ってくる気配は徐々に近づいてくる。
その時になってようやく気付いた。
路地の道幅が段々と狭くなり、袋小路に追いつめられていることを。
女は1度立ち止まり、次のルートを変えようと思案する。
背中に強い衝撃を受ける。
重たい何かがのしかかり、顎を強かに打つ。
手慣れた様子で腕をロックされた。
身じろぎするが、びくともしない。
掴まれた手の感触から同姓だとわかったが、まるで岩のようだ。
「ふふん。掴まえたッスよ、かわい子ちゃん」
首だけひねると、金色の双眸が怪しい光を放っていた。
自分を拘束する手とは逆の手を、わきわきさせている。
「どんなプレイがお好みッスか? フルフルはどんな要望にも応えるッスよ。希望のシチュとかあるなら今のうちに言っておくッスよ、お客さん」
宗一郎がいれば、「イメクラか!」と突っ込んだところだろう。
残念ながら、今は悪魔の暴走を止めるストッパー役はいなかった。
「およ。よく見ると、その格好……神官ッスねぇ。ふむ……。これは老神父と聖女のイケない関係的な――――おお! インスピレーションが沸いたッス」
下品な言葉を聞いて、ようやく背中に居座っている人間がどんな性格か察したのだろう。
女は一層力を入れて逃れようとするが、全く動かす事が出来なかった。
「なに馬鹿なことをいっているんですか、フルフルさん」
声が聞こえる。
続けて現れたのは、白い肌と美しいブロンド、そして特徴的な形をした耳を持つ2人組のエルフだった。
男のエルフは女に近づく。
つぶらな瞳を少し細め、口を開いた。
「やっぱりあなたでしたか。エーリヤさん……」
さて、展開が混迷して参りました。
明日も18時に更新になります。
よろしくお願いします。
※ 最近、少しptが増えました。
ブックマークと評価をいただいた方、ありがとうございましたm(_ _)m




