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13歳―25―

 その翌朝。

 目が覚めると、体が動かなくなっていた。


 一時的とはいえ、魔力神経負荷が1500%を優に超えた影響だろう。むしろ昨日は戦った後に話をして、寮まで自力で帰って寝付くまで、良く体が保ってくれた方だ。


 仕方なく今日は学園を休むことになった。訪問診察に来てくれた保健の先生いわく、「一日二日程度安静にしていれば、良くなるだろう」とのこと。

 杖剣のお陰で、パルアスと戦った時ほど寝込まずに済みそうだ。




 そんな月曜日の昼過ぎ。

 学園が終わって直行してきたんだろうな、という速度でシウラディアがお見舞いにやってきた。


「ルナリア……大丈夫?」

 ベッドの横に来て、私の顔を覗き込んで来る。心配を通り越して、青ざめた表情だった。私より体調が悪いと言われても納得できそう。


「うん、首から上は元気なんだけどね。腕と足に全然力が入らなくて」

 そんなシウラディアを安心させるように、努めて明るい声で言う。

「ごめ……」

 と言いかけて、小さくシウラディアが首を振る。


 そして、ぎこちない笑顔を作って、

「昨日は本当に、ありがとう」

 と言い直した。

 謝るのは違う、と思い直してくれたみたい。

「どういたしまして」

 今度は自然と溢れた笑みで返事する。


「なにか私にして欲しいこととかある?」

 シウラディアも少し元気を取り戻してくれたようで、朗らかにそう言ってくれた。


「して欲しいこと……そうだなあ」

 今、エルザは貸しキッチンでお菓子の用意、ショコラは奥の更衣室で作業している。昨日ボロボロになった制服の代わりを出すついでに、整理と片付けをしてもらっているのだ。


「それじゃあ、体を起こして欲しいかも。寝たまま話すのも、なんか変な感じだし」

「分かった。じゃあ、背中触るね」


 シウラディアが私の背中に両手を回す。寝たまま抱きしめられるような形だ。

 そのまま上体を持ち上げられる。


「……軽いね、ルナリアの体」

「まあ、身長も体重も平均以下だから」

「こんな、私より小さくて細い体なのに。本気のドーズ先生と、あんなになるまで戦ったのね……」

「ふふん、すごいでしょ。魔法剣に関しては天才過ぎて本当自分でも……」


 とか軽口を叩いていたら、シウラディアにぎゅっ、と抱き寄せられた。

 女子の平均を大きく超えた二つの膨らみが、男子の平均と大差ない(細い分むしろ男子以下な)私のそれに押しつぶされて、形を変えるのが分かる。


「ぅ、うぅ……」


 肩の上に乗ったシウラディアの口から、小さなうめき声が耳に入ってきた。

 どうやら泣いているみたいだ。


 ――さっき一瞬、持ち直してくれたのに。

 体の軽さで決壊してしまうなら、頼まなければ良かったな……

 シウラディアのお見舞いに行ったときのことを思い出す。私はこの子を泣かせてばっかりだ。


「もう、泣き虫さんね」

 背中でもさすってあげたいけれど、あいにく私の腕はぷるぷると震えて、少しだけ持ち上がる程度。


「だって……本当だったら、ルナリアがこんな目に遭わなくて良かったはずなのに……私、迷惑ばっかりかけて……」

「別に、シウラディアのせいじゃないでしょ。一日二日で回復するだろう、って保健の先生にも言われたし、大した目にも遭ってないよ」

「でも、でもぉ……」

「もしかして、まだ私の悪口言ったりしたこと気にしてるの? そんな昔のこと、いつまでも気にしないでよ」

「ついこの前のことだもん……」


 だから泣いてしまうのも悪くない、と言いたげに、シウラディアはさらに力を強めて、私を抱きしめた。

 それからシウラディアが落ち着くまで、何もできない私はなされるがままにされていた。


   †


 五分ほど経っただろうか。

 泣き止んだシウラディアの手で、ヘッドボードに寄りかからせてもらう。


 背中から手を離して、次に肩を持って私の体を真っ直ぐに調節してくれるシウラディア。


「ありがと」

「そんな。私の方が、ずっとずっと、ありがとうだよ」

 目を赤く腫らした顔で、シウラディアは微笑んだ。


 ――うーん、生真面目なのは良いところでもあるんだけど……

 思い詰めすぎるのが良くないところだ。なんとか改善してあげたいな。


「……ねえ、ルナリア」

 座らせてもなお私の両肩を掴んだまま、シウラディアが真っ直ぐに私の目を見る。



「私、ルナリアが好き。大好き」



 急に言われて、一瞬目をぱちくりとさせた。

「ありがとう。私も大好きよ」

 嬉しくて、考えるよりも先に私はそう言い返していた。


「……多分、私の好きとルナの好きは、違う意味だと思う」

 シウラディアは少しだけ困ったように笑う。

「違う意味?」

「……こうしたら、分かる?」


 私が聞き返すと、シウラディアの頬が少しだけ上気して。

 ゆっくりと顔が、唇が、近づいくる。


「?」

 また抱き寄せようとしてるのだろうか?

 だとしたら、さっきみたいに顔を私の肩に乗せないと、ぶつかっちゃうけど……?


 私とシウラディアの顔がぶつかりそうになって……


 コンコン――


「ぴっ!?」

 ノックの音で、一気に離れていった。

 というか、シウラディアの体がちょっと浮き上がったようにすら見えた。


「はぁい、開いてますからどうぞー」

 と私はドアの方に向かって言う。

 シウラディアはなぜか少し慌てた様子で、ベッドの横にある椅子に移動していた。


 ――どうしたんだろう?




 ドアが開くと、背伸びしてノブを回したロマが部屋に入ってくるのが見えた。

「邪魔するぞい」

 そう言ってドアを閉めて私の方を見、次にシウラディアを見る。


「む? 先客か。初めまして、ワシはロマという。こんな見た目じゃが学園の三年生じゃ」

「は、初めまして……、シウラディアと申します。お噂はかねがね……」


 どこか心あらずと言った様子で、顔を僅かに赤くしたシウラディアが返す。


「そうか、お主がシウラディアか。昨日は災難じゃったな」

 言いながらロマもベッドの横、シウラディアのすぐ隣に歩いてくる。


「ロマ、シウラディアに謝ることあるんじゃない?」

「謝ること?」

「昨日、私がシウラディアを助けに行くって言ったときにさ」

「ん? ……ああ、いや、あれは、その言葉の綾というか……」

 思い出したか、バツが悪そうに視線を逸らすロマ。


「私を心配しておおげさに言ったのは分かるけど、シウラディアに酷いこと言ったよね? こうして無事に帰って来れて、知り合えたんだから、一応謝っておくべきだと思うな」

「まあ……そう、じゃな。無かったことにして仲良しこよし、というのも確かに気分が悪い」


 今度はシウラディアの方が、私たち二人を見比べて?を浮かべていた。

 ロマがシウラディアに体ごと向き直る。座って居るシウラディアと視線の高さがほぼ変わらない。


「済まぬ。昨日、お主を助けに行こうとするルナを、ワシは止めようとした。……シウラディアなんて女、ワシの知ったことではない、と。ルナリアの方が大切だから、万が一もあって欲しくない、とな」


 すると、バッ、と跳ねるようにシウラディアが姿勢を正し、自分の胸元に手を当てた。


「そんな、謝られるようなことじゃないです。私も、仰る通りだと思います。こんな女見捨ててれば、半身不随にもならなかったし、危険な目にも遭わなかったんですから」


 その言葉に、ロマが僅かに眉根を寄せる。

「……『こんな女』呼ばわりはいかんな。ワシの一番の親友が、命を賭して助けようとしたんじゃ。たとえ本人でも、粗末にするような言い方は許さんぞ。……まあ、見捨てるよう言ったワシが言うのもなんじゃが」

「あ……、ご、ごめんなさい」


 さっき私相手には我慢できていたのに、つい自分を貶める言葉を言ってしまったシウラディア。

 しゅんとして、身を縮こまらせていた。


「まあ、気持ちは分かる。こんな愛らしい少女を危険にさらした自分を恨みたくもなるというものじゃ」

 言ってロマが私を横目で見て、再びシウラディアの方を向く。

 ――まあ、今となってはロマの方が数十倍愛らしい姿をしてるけど。


「じゃがそれが一番、ルナリアを悲しませると知っておるからの。こやつに助けられた先輩からの教えと思っておくれ」

「……ロマ先輩も、ルナリアに助けられたんですか?」

「まあな。その辺の話はメシの時間にでも交わすとしよう」

「……え? ご飯?」

「そろそろそんな時間じゃろ? もう帰る予定じゃったか?」

「え、いえ、そういうわけじゃありませんが……」

「なら詫び代わりに今夜はワシから奢ろう。その上で、気が向いたらワシとも友になってくれ」

「そ、そんな、もちろんです。こちらこそ、よろしくお願いします」


 どうやら、仲良くなれたようで何よりである。まあ、最初からこの二人が仲違いするとは思って無かったけど……


「しかし、何を食うたらこんな大きくなるんじゃ?」

 いきなり胸を鷲づかみにするロマ。

「きゃんっ!?」

 小さく悲鳴を上げるシウ。

「ちょっと、失礼でしょ! せめて触って良いか聞くとか……」

 ――いきなり仲違いしそうなことしでかしてきた。


「別に、女同士なんじゃからええじゃろ。減るもんでもない」

「ごめんね、ロマはその、人間じゃない生物に育てられたから、礼儀とかなってなくて……」

「嫌じゃったか?」

「あ、いえ、びっくりはしましたけど、嫌とかではないです……」


 前聞いたときは、自分の胸にコンプレックスを抱いていたようだけど……まあ、ロマくらいガサツに扱われたら逆にあんまり気にならないのかもしれない。見た目が見た目だし。


「ふむ」

 次に、やはり断り無くシウの膝の上に乗るロマ。

 シウラディアは戸惑いながらも、なされるがままになっていた。

「ルナリアと居るときはいつもこうして貰っておるのじゃ。今日は厳しそうじゃから、シウラディアの膝を貸しておくれ」


 ロマは新しい遊び相手ができて喜ぶ童女のように――というか、実際その通りなのだろう――楽しそうに言うと、振り向いてシウラディアを見上げる。

 喜んでる犬の尻尾みたいに両足を交互に揺らしていた。


「乗ってからじゃ遅いんだってば。先に聞きなさい」

「ルナリアは別に聞かんでも受け入れてくれたじゃろ」

「それは……そうだけど」

 反論できない私。いやまあ、ついつい可愛くて受け入れちゃうんだけど。全員が全員私みたいな人間とは限らないのに……


「嫌なら突き飛ばしてくれて構わんからな」

 と、今更殊勝なことを言うロマ。こういうところズル賢いけど、その見た目で許されるから卑怯だ。

「いえ、嫌じゃないですよ」

 ぎゅっ、とロマのお腹を持って抱き寄せるシウラディア。

「おお、柔らかくて、心地良いのう。同じ女なのに、不思議な感触じゃて」

「どうせ私は固いわよ」

「いやいや、同じ年の頃の自分と比べても、じゃよ」


 と、そこで奥からショコラがゆっくり出てくる。


 同時にシウラディアが何か声を上げたような気もしたけれど、小さすぎてよく聞こえなかった。気のせいかもしれない。


「おかえりなさい。ずいぶん時間掛かったわね、なにかあった?」

「……ああ、いや、その、出るタイミングが……」

 珍しく歯切れの悪いショコラだ。


「タイミング?」

 と、ショコラはそこで私……の向こう側に居るシウラディアを見た。


 その瞬間、シウラディアの顔が徐々に真っ赤に変わっていく。


「……こっちにも色々あんだよ」

 ぶっきらぼうに頬を掻いて、ついっと視線を逸らした。

「ショ、ショコラさん、いらしたんですね……」

 シウラディアが少し上擦(うわず)った声で、そんなことを言った。

「え、ええ……、挨拶もできず、申し訳ありません……」

「こ、こちらこそ、色々すみません……」


 私とロマは二人とも?を浮かべながら、ぎこちない二人の様子を眺めていた。

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― 新着の感想 ―
ソッチ方面だけ鈍感すぎる(笑)
[良い点] とても素晴らしい女の子同士のイチャイチャです〜 でもルナさんが空気読まず、折角のシウさんのご褒美を台無しにしてしまったのが玉の傷かもww
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