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ショートショート10月~2回目

野良魂

作者: たかさば
掲載日:2021/10/08

 薄汚れたアパートの入り口で、佇んでいる、一人の、影。


 向こうがわが透けている。


 ……あれは、野良魂だ。


 この世に心残りがあって、天に昇ることができなかった、魂。


「……。」

「………。」

「…、……。」

「…?」


 蟠りを残した出来事を、繰り返し……呟いている。


 死してなおつぶやき続けるくらいならば、なぜ生前に呟いておかなかったのか。


 この野良魂は…、呟くことができる環境にいた。


 つぶやくことができるのに、呟かなかった。

 つぶやいて行動することができたのに、動かなかった。

 つぶやいて運命を変えることができたのに、変化を望まなかった。


 つぶやく事すらできない環境にあった魂ならば、命が途切れた瞬間に解き放たれることもある。


 やれたはずなのにという思いがあるせいで、囚われている。

 自分の功績を称えない世間が悪いという考えがあるせいで、囚われている。


 自信を持ちながら、結果を出さずに潰えてしまった命。

 自身を持ちながら、周りに合わせて埋もれることを決めた命。


 怨念になれない、ただの後悔の塊。

 希薄になれない、ただの執着の塊。


 悪魔が喜ぶほどの憎悪を持たず、天使が喜ぶほどの純粋を持たず。

 神が情けをかけるほどの悲劇を持たず、鬼が怒りを持つほどの傲慢を持たず。


 実に中途半端で、魅力のない、野良魂だ。


 食ってもうまくない、魂。

 生まれ変わってもうまくいかない、魂。


 黒い部分を白に変えて、天にあげるか。

 白い部分を黒く塗りつぶして、食らうか。


 野良魂にそっと近づき、様子を見ながら、最善の手を探る。


 話をさせてみる。

 願いを言わせてみる。

 夢を語らせてみる。


 黒い部分は、なかなか薄くなっていかない。


 話を肯定してみる。

 願いを聞いてみる。

 夢を叶えてみる。


 黒い部分が、増えていく。


 話を否定してみる。

 願いを叩き潰してみる。

 夢を笑い飛ばしてみる。


 白い部分が、ぽつぽつとできていく。


 何をしても、こちらの思惑に乗ってくれない。


 中途半端にやる気があって、諦めがあって、納得をして、思い出したように文句をつぶやく。


 ……面倒な野良魂だ。


 これ以上手をかけても、恐らく同じことの繰り返しになるに違いない。


 俺はこんなものに囚われている。

 俺はこんなものに弄ばれている。

 俺はこんなものに揶揄われている。


 たかが、ちっぽけな、野良魂だというのに。


 この、憎悪の魔術師と言われた俺が…。

 この、怒りを巻き起こす奇跡と噂される俺が。

 この、絶望が尾を振り飛び込んでくると名高い俺が!


 俺様の、手厚い施しを!!!


 無駄に使いやがってええエエエエ!!!



 ・・・・・・ぱっくん!



 目の前の、どっちつかずのぼんやりした野良魂。

 ……このまま食っても、味もそっけもないんでね。


 ちょいととびきりの味の素を、トッピングしてやった。


 自分お手製の、怒りってやつをさ。


 相変わらず俺の怒りは…、活きが良くて熱があってピリリと刺激的だ。


 ……もうさ、味の素の販売でもしようかなって思ってるんだよな。


 最近の野良魂のマズさときたらほんと地獄ニュースでも一面に載るくらいでさ。


 絶対大ヒット間違いなしなんだよな……。


 ……。



 ……よし。



 俺は、地獄に退職届けを出すことを決めて、闇にまぎれた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 怒りふりかけですか。 怒りソー(いえ、なんでもないです。
[一言] そ、そ、それは…… 大ヒットしてからにしよう! 魔術師さん! 面白かったです!
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