第33話 閉幕
「……さん、起きてください。木崎さん」
優しい声が頭上から降ってくる。
俺はその声にいざなわれるようにして、目を開けた。
「……ぅん? あ、あれ? 岸田さん?」
「どうも」
目の前には岸田さんの顔があった。
気付けば俺は、岸田さんの膝の上に頭を乗せて寝ていたようだった。
「おわっ、ご、ごめんっ」
「いえ、わたしが勝手にしたことなので」
いつも通り平然とした様子の岸田さんはそう言うと、ベンチから立ち上がり「うーんっ」と背伸びをする。
「お、俺、なんで岸田さんに膝枕なんか……」
「憶えていませんか?」
岸田さんにそう問われた俺は頭をフル回転させ、記憶の糸を手繰り寄せる。
すると次第に、おぼろげながら記憶がよみがえってきた。
そ、そうだ。
たしかダンジョン所有者限定バトルトーナメントの決勝戦で、岸田さんとまさにこれから戦おうとしていたんだった。
それで試合開始直後に、岸田さんが何かつぶやいたと思ったら、俺は突然気を失って……。
「っていうか試合はっ?」
「試合はもうとっくに終わりましたよ」
そう答える岸田さんの肩越しには夕日が赤々ときらめいて見えた。
「わたしが優勝しました。これ、優勝賞品の使い魔の卵です」
言って岸田さんはカラフルな模様の卵を見せてくれた。
「そ、そっか。俺、岸田さんに負けたんだね」
「はい」
余裕で優勝できると思っていたのに、まさか岸田さんに負けるとは。
俺はため息を吐きつつ周りを見渡す。
するとそこはバトルトーナメントの開催場所の最寄り駅だった。
「もしかして、岸田さんが俺をここまで運んでくれたの?」
「はい。わたし結構力あるので」
「そう。ありがとう。なんか迷惑かけてごめんね」
俺がお礼と謝罪を同時にすると、岸田さんは少しだけ申し訳なさそうな顔になる。
「すみませんでした。卑怯な方法で勝ってしまって」
「え?」
「わたし、どうしても使い魔の卵が欲しくなってしまって……まともにやったら木崎さんには勝てないと思ったので、わたしのスキルで木崎さんを眠らせてしまいました」
「あー、そうだったんだ」
俺の記憶がおぼろげなのは岸田さんのスキルのせいか。
相手を眠らせるスキル……それは想定していなかった。
「もしよかったらこれ、いりますか?」
言いながら岸田さんは使い魔の卵を俺に差し出してくる。
「いいよいいよ。優勝したのは岸田さんなんだからっ。それにスキルありの勝負だったんだから全然卑怯とかじゃないし」
「そうですか。じゃあ、遠慮なく」
岸田さんは俺の言葉を聞いてすぐさま卵をバッグの中にしまう。
なんだかんだ言って、結局、使い魔の卵は手放したくないようだった。
とそこへ電車がホームへとやってくる。
岸田さんは、
「木崎さん。帰りましょうか」
俺を振り返って言った。
「うん、帰ろう」
「あ、木崎さん」
「ん、なに?」
「今日は楽しかったですね」
これは俺の気のせいかもしれないが、俺にそう言った岸田さんはとても幸せそうな顔に見えた。




