第13話 前世悪役令嬢。現代OLに転生して、幼馴染みの年下彼氏に溺愛されてます。
私たちが関わったプロジェクトは、新商品の発表当日すぐに、あっという間に話題になった。
雑誌やネットニュースで取り上げられて、駅ビルや大手百貨店の店舗では行列ができるほどの売れ行き。
期間限定だったはずの商品だったけれど、売り切れ続出の声に押されて、常設販売に切り替えられることが決定した。
「すごいよなぁ、こんなに注目されるなんて」
「チームの皆さんの努力の賜物です。それに今回のプロジェクトは、広瀬の頑張りで成功したものですよ」
後日行われた成果報告会で、上層部が何度もそう言っていた。
総責任者の早河チーフが壇上でまとめの言葉を述べると、会場は拍手で包まれる。
広瀬衛も上層部からねぎらいの言葉を受けていた。
あれから――……広瀬衛は、私に過剰な仕事を押し付けることがなくなり、それ以外でも関わらなくなった。
本人はプロジェクトリーダーだし、私はサポートに入ってるメンバーだから、プロジェクトが終わるまでは、仕事のことで接することはあったけど、扱いは他のサポートメンバーと同じ。
あの過剰なアプローチや接触が、ぴたりと止まったのだ。
表面上は何でもないような顔をしていたけれど、私が横切ったりすると、わずかに身体を強張らせていたから、相当ビビっていたに違いない。
根性ねーな。
そうやって逃げるぐらいなら、最初から関わってこなきゃよかったのにさ。
私としては、てっきり、自分を受け入れないなんて許さない!って、嫌がらせされることも想定してたんだけど、それもなし。
まぁ、王子だった時も、前世の私を罵ったのは、仕事の邪魔をされたときとか、罪のない相手に、前世の私が嫉妬して虐げたのを知った時だったもんね。
悪役令嬢が主役のラノベみたいにさ、王子が自分から嫌いな悪役令嬢に近づいてきて、冤罪をでっちあげてぎゃんぎゃん喚く、みたいなことはしなかったんだよ。
根は善良だったんだよねぇ、王子様。
だから償いたいとか、わけのわかんねーこと考えてたんだよ。
根本的に、合わなかったんだよねー、相性が。
前世の私は、王子の顔が好きで、あの性格が優しいって思って、それで夢中になったんだけれど、そもそも度量のない王子には、嫉妬の塊だった前世の私を受け止める余裕がなかったんだもん。
どう頑張ったって、結ばれるわけなかったんだよねぇ。
ともかく、この成果報告会をもってプロジェクトチームは解散して、ようやく私は庶務課に戻れることになった。
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プロジェクトチームが解散し、庶務課に戻った私は、不在の間の庶務課を回していた茉莉に泣きつかれた。
「千束がいなくて大変だったんだよぉ! なんか千束の変な噂も流れてきたしさぁ! もうそんなんだったら、こっちに千束を戻せって、何度怒鳴り込みに行こうと思ったことか!!」
あー、やっぱあの私の悪い噂、他の部署にも広まってたんだぁ。
まぁ、庶務課であの話を信じる者は居まい?
庶務課のみんなは、私が兵吾にしか眼中にないの知ってるし、そのうち消えるでしょう。
通常業務に戻った私は、他の部署に書類を届けに行ったときに、ふと耳に入った会話に顔を上げる。
「ねぇ、聞いた? 企画の広瀬さん、ロス本社に転属するらしいよ」
「この間のプロジェクトで評価されたんでしょう?」
「送別会やるのかな?」
「まだ先の話だからどうだろうね」
へー? ロサンゼルス本社に転属ねぇ。
属ってことは、もう日本には戻ってこないで、あっちに腰を据えるってことかな?
広瀬衛が私にしてたことって、見方を変えれば、嫌がらせと同じ。
祐実さんだけじゃなくって、サポートからも報告されてたみたいだし、たぶん、上の方では問題になってたはず。
でもプロジェクト成功したじゃん?
だからさぁ、表向きはその手腕をよりよく生かすために本社にって形だけど、実情は、本社の厳しいコンプラを体験して反省しろってことなんだよね。
あと日本でそこそこの業績でも、海外本社でどこまでそれが通じるかわからないっていうのもある。だって海外の方が日本よりもいろいろ厳しいからさぁ。
結局、潰し合いはなしか。
プロジェクトは終わって接点はなくなったけど、振られた(?)腹いせに、なんか仕掛けてくると思ったら、それもないしね。
ちぇー、つまんないのぉ。
まぁ、海外に行って、金髪美女に食われるか、ガチムチマッチョに掘られれば、人生観変わるんじゃねーの?
なんか王子様の延長で生きてたみたいだったしね。
庶務課のフロアーに戻る途中で、声がかかった。
「萩原さん」
名前を呼ばれて振りむくと、そこにいたのは、咲村こころ。
「咲村さん?」
親し気な笑みを向けながら、咲村こころが近づいてきた。
「ちょっと、時間、よろしいですか?」
「えっと、はい。大丈夫、です」
そのまま休憩スペースに移動すると、咲村こころにミルクティーを渡される。
「どうぞ」
「ありがとう」
私がミルクティー好きなの、知ってたのかな?
「何か、話、あるのかな?」
ミルクティーを受け取りながら訊ねる。
「私、来月から地方の支社に移動することになりました。そのことを、直接、萩原さんにお伝えしたくって」
報告してくる咲村こころは、憑き物が落ちたような感じ。私を見る目も、あの敵愾心がきれいさっぱり消えていた。
ここで、なんで私に報告にきたの?って聞くのは野暮な話だよね。
「そう、なんだ……急に決まったの?」
「いいえ。プロジェクトの終わりごろに、希望を出してたんです。それで、今日、正式にそれが通って……」
ってことは、もうあのプロジェクトの終盤辺りでは、広瀬衛への踏ん切りはついていたのか。
「萩原さんには、いろいろご迷惑をかけたから……」
そう言って小さく息を吐きだしてから、咲村こころは頭を下げる。
「いろいろ酷いことして、ごめんなさい」
何も言わないで、黙って移動することだってできたのに、律儀な女だなぁ。
「酷いことは――、私の方もしてたけど?」
私がそう言い返すと、咲村こころは、面を食らった顔をする。
「泣き寝入りして逃げ出す、か弱い女だと思った?」
「だってあなた、普通あんなこと言われたら……」
男と寝て仕事を取ったとか、押し付けたとか、そんなこと言われたら、傷付いて泣きだすって思うんだろうなぁ。
まぁ、私はそう言うのを利用して、相手にカウンター与えるのが大好きだけどね。
「悪魔を呼び出して、やりたい放題やってた女が、あの程度で逃げ出すわけないじゃない。そんな可愛げのある性格してたら、処刑なんてされなかったわよ」
前世の私は、倫理感もぶっ飛んでたけどね。
言いたい放題言われて、癪に障ったのか咲村こころは、顔を真っ赤にして言い返してきた。
「が、外見詐欺だなんて気づかなかったんだから、仕方がないでしょっ」
「つまり、リサーチ不足だったわけね」
私がそう言うと、咲村こころはグッと声を詰まらせた。
「それで、広瀬……さんのことはもういいわけ?」
あぶねーあぶねー。危うくフルネームで呼ぶところだったわ。
私の問いかけに、咲村こころは苦笑いを浮かべる。
「もう、いいっていうか……」
口ごもりながら、咲村こころは話し出す。
「あなたの、言う通りだったし。それに、なんか、アレを見てたら気持ちが……」
「言う通り?」
「……ペット扱いだったって言ってたじゃない」
あぁ、それか。
「前世の話しでしょ? 今は違うんだから、ペットから昇格狙えばいいじゃない」
「やってたわ。でも、広瀬さんあなたに執着して、無駄だったでしょう?」
なんか変な風に思い込んでたところ、あったような気もするけれどねぇ。
「でももう、私のことは諦めたみたいだし、言い寄ってもきてないよ。今ならいけるんじゃないの?」
そう言ったのに、咲村こころは首を横に振る。
「冷めたのよ。あの人のあなたに対しての執着を見てたら、こんな人だったっけ?って思ったの」
え、う~ん。これはどう言えばいい?
気持ちが冷めるっていうのは、私もそうだったから、そのことに何か言うつもりはないんだけど、でもそんな簡単に諦められるもんなのかな?
それこそ好きだったのに殺されたとか言うならまだしも、咲村こころは王子に危害を加えられたわけじゃなかったし、それは今世でもそうじゃない?
まぁ、相手にはされてない感じはしたけどさ。
「好きだったのは、本当よ。前世だってずっと好きだった。生まれ変わって広瀬さんを見た時、今度こそって思ったわ」
あ、それも不思議だった。
ちょっと聞いてみたい気もするんだけど、先に、なんで冷めた?っていうか、広瀬衛を諦めたのかを聞いておこう。
「だから頑張って、何とか私を見てもらおうと思ったけれど、広瀬さんは全然振り向いてくれないし……。あなたに対しての態度が、どんどん執拗になっていくし、なんか変だと思ったわ。それで、あんなこと言って……」
あんなことって、最後のあれだよね。
前世のこと話し出して、私が覚えてないと思って大嘘ぶっこいたやつ。
「アレを見たら、勝手なんだけど、幻滅しちゃったのよ。この人こんなに自分勝手な人だったの?って」
咲村こころは大人だなぁ。素直に気持ち悪いって言えばいいのに、幻滅したってマイルドな言い回しするの、すごい。
「そうしたら、もう、全部、どうでもよくなったの。前世のことも、広瀬さんのことも、それからそのことに拘ってたことも」
それで、もういいってなっちゃったのか。
まぁ、好きなのに振り向いてくれなくって、じゃぁもういいってなるその気持ちはね、わからないでもない。
「広瀬さんが王子の生まれ変わりだって、なんでわかったの?」
どうしても疑問だったことを訊ねたら、咲村こころは不思議そうな顔をして答えた。
「え? だって、見えたわよ? 王子だった頃の姿が」
見えたのか。
「じゃぁ、私も?」
「あなたは最初はそうじゃなかったんだけど、やり返されたときに、姿がダブって見えたわ」
ふ~ん、まぁおおむね私と同じ状態だったわけか。
ってことは、たぶん広瀬衛も同じだな。
むしろ、悪魔が何かしていた可能性ありそう。でも、それを確かめる方法なんてないから、本当はどうなのかなんて、わからないままだね。
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本人に移動の話を聞かされてから一か月後、私は兵吾と一緒に、咲村こころを見送りに駅へ向かった。
入場券を購入して、ホームで電車を待っている咲村こころへ声をかける。
「やっほー、こころちゃーん。お見送りに来たよー」
見送りに行くとも何も言ってなかったから、手を振りながら近づいてくる私の姿を見た咲村こころは、目を見開いて固まっていた。
「な、なんで?」
「はい、これー」
そう言って持っていた紙袋を差し出す。
「え?」
「前に言ったじゃん。『ざまぁフラグ王子』貸してあげるーって。だから餞別にあげる」
単行本が入った紙袋を受け取りながら、咲村こころは戸惑った様子を見せる。
「あとさー、前に聞かれた質問、答えてなかったじゃん? だから答えておこうと思って」
「質問?」
「なんで王子を諦めたのかって質問」
思い出したのか、「あぁ、あれ」と、小さく呟く。
「咲村さんはさ、王子に嫌われていたわけじゃないし、普通に可愛がられてたじゃん?」
ペットとしてだけど。
「王子との思い出は、優しくされて、楽しかったいい思い出だけでしょ? でも私は、王子との思い出ってあんまいいモノじゃないよ」
罵られて、蔑まれて、貶められて、馬鹿にされて。
そういうことしかされなかった。
そういうことをされるようなことしか、してなかったんだから、当たり前なんだけどね。
「それで、挙句の果てに、断罪ざまぁされて、首ちょんぱ。首ちょんぱは王子にやられたわけじゃないけど、指示したのは王子だし、心情としては、王子にやられたようなもんよ」
広瀬衛の海外転属は事実のようで、準備として、転属先の方へ何度か行っているようだ。
もっとも部署も違うし、全く顔を合わせることがないから、奴の情報は、他の社員がしている会話からのもなんだけどね。
王子に対しては確かに恨み辛みはある。そして自分の都合の為だけに、私に付きまとった広瀬衛にもムカつく。
けれど、じゃあ、今やり返したいか?というと、どうでもいい。って感じだ。
特に今回のことは、私が自分の手でちゃんとケリをつけたし。
「自分を嫌って殺した奴、生まれ変わっても好きになる?」
「……無理、かも」
かも、じゃなくって無理なんだよ。
「まぁ、そーゆーことよ」
もし前世の私が婚約者の王子に愛されていたらってことは、あえて言わないことにした。
だって後ろから私を抱きしめてる兵吾が、そんなこと聞いたら嫌な気分になるじゃん。
私、好きな人には一途なのよ。
他にどんなにイケメンが傍にいたって、好きな人以外は眼中にないの。
それは前世もそうだった。
王子の傍には、イケメンの側近が何人か側にいたけど、前世の私は王子にしか興味がなかった。
浮気性じゃないのよ。逆ハー願望もないの。
「じゃぁね。向こうに行っても元気で」
言いたいことは全部言ったので、お別れを言って背を向ける。
兵吾と恋人つなぎで手を繋ぎ、歩き出すと――……。
「ありがとう! それから、本当にごめんなさい!」
振り返ると、咲村こころ―――……、いや、こころは涙を流しながら、私たちを見ていた。
「ま、また……、またね!!」
“さようなら”じゃなくって、“またね”か。
兵吾と繋いでない方の手を大きく振って、私も返事をする。
「またね!!」
私の返事を聞いて、こころは手を振り返した。
「まぁ、これが永遠のお別れってわけじゃないんだけどー」
こころとは、スマホのトークアプリの連絡先を交換し合ってるからね。
とりあえずのお別れ。再会があるお別れ。
「それにしても、ほんっと疲れた~」
「おつかれさん」
「もっと労わってー! よしよししてー! だって私、巻き込まれ損じゃん! 広瀬衛は前世前世でしつこかったし、こころには変な対抗心持たれるし。ろくなことなかったぁ!」
ぶーぶー文句をこぼしたら、兵吾が前から覗き込むように顔を近づけてきて、軽く唇にキスされる。
「本物のご褒美は家に帰ってからな?」
うひゃ~! 今夜はいっぱい可愛がられる予感~!
ハッ! しまった! 忙しかったから、まだエロかわベビードール買ってない!!
まぁいいや。あぁいうのは、もっと吟味して買わなくっちゃね。
「そーいえばさぁ、ひーくん。ひーくんはどう思う?」
「何が?」
「今の人生が終わって、生まれ変わったら。来世で私と会いたい?」
私は会いたい。
まだまだこの先、兵吾とずっと一緒だし、きっと死ぬまで一緒だと思う。
その先のことなんてわかんない。
死んだあとどうなるかなんて、わかんない。
でも――……。
「来世もひーくんの傍にいたいよ」
そう呟けば、兵吾は愛しいものを見るかのように目を細めて、口元に笑みを浮かべる。
「そんな心配、する必要ない。未来永劫、千束の魂は俺のものだからな」
「え?」
「ん?」
まじまじと兵吾の顔を見るも、兵吾はどうした?って顔をしていた。
ん?
END
(。´・ω・)ん?
お付き合いありがとうございました!




