表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/471

96.感謝


 そして。

――ベルメルシア家を守っていく。


 これは二人に共通する一番の思いである。

 歩き出す前にフォルは会釈程度の挨拶をすると顔を上げ、オニキスに話しかける。


「旦那様。一つだけ、よろしいでしょうか」

「ん? あぁ……」

 その言葉に一瞬、硬く真剣な表情になるオニキス。しかしすぐに笑いながら「ぜひ、何でも聞かせてくれ」と、答えた。


――その心情を、隠すように。


「お許し頂きありがとうございます。では、申し上げます。『道を外せば正す』、大切なことです。しかし私は、旦那様の目指す道、決めた道へは――何処まででもついて行く所存にございます」

 その優しく穏やかなフォルの口調には揺るぎない決意と強い安心感、そして笑った目尻のしわには貫禄すら感じる。


「しかし、フォル。私は――」

「大丈夫です、オニキス様。今まで通り、貴方が信じる道をお進み下さい」


「……そうか。いつもすまない」

「ご心配なさらずに。この(フォル)に、お任せ下さい」


(そうです、オニキス様。何があろうと、私はこのベルメルシア家に――ベリル様と貴方様に。生涯を捧げると誓ったのですから)


――貴方の未来は必ず、明るくなります。

 オニキスに伝わるように強く、心の中で呟く。


 言葉では言い表せないフォルの優しさを感じるがままに受け止めたオニキスはフッと、微笑む。それから爽やかな表情に戻ると柔らかな声で、返事をする。

「フォル、君には本当に心から感謝している」


「恐れ多いことでございます。それでは旦那様。私は先に参ります――」

 そう答えたフォルは再びお辞儀をしながら向き直ると食事の部屋へ、歩き出した。オニキスはその背中を見つめながらもう一度「ありがとう」と小声で感謝の意を、伝えるのであった。


 視界からフォルの姿が見えなくなるのを確認するとオニキスはホッと、溜息をつく。そして立ち止まった理由である自分の足元に、目を向ける。


「さて、どうしたのかね」

 そこには見覚えのある、あの『黒い布』が置いてあった。


「美しきシルクの上着(マント)。これが此処にある、ということは――」


 バサァッー!!


「ん、んあぁぅ?!」

 とても高い声で、驚いたのは。


(やはりな……)

「やぁ、可愛いクォーツ。先程ぶりだね」

「だ、だんなしゃま……」

 見つかった、と言わんばかりの顔で涙目になるクォーツであったが、しかし。


 オニキスは「どうしたのかな?」と話しかけ部屋で会った時と同じように優しく、抱き上げる。


 その表情はもちろん、満面の笑みだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ