85.支配
「大変……し、失礼いたしました、奥様」
その声を合図にその場にいた者は皆ひざまづき、頭を下げる。
「ふふ、よろしい。許してあげましょうねぇ」
スピナは服従の姿勢に戻ったお手伝いたちの顔を確認するようにゆっくりと歩くと、鼻で笑う。そして先程の形相とは打って変わりご機嫌で流暢に、話し始めた。
「あぁ~そうそう。いつも私に全身全霊を捧げて、仕えて下さるあなたたちに、お願いがありますの」
その言葉に頭を下げたままのお手伝いたちの身体はビクッと、微動する。
一瞬を見逃さなかったスピナは謝罪の言葉を口にした一人の前にかがみ込むと、彼女の顎に手を持っていきスーッと顔を上げる。
「――ひぃッ?!」
恐怖で冷や汗をかく彼女の顔色はみるみる、蒼褪めていく。
「あらぁ? そんなに怖がらなくてもいいじゃない。何もそ~んなに難しいことを頼むわけではないのよ?」
「は、ぃ。仰せのままに」
引きつった笑顔で答える彼女の頭をぐしゃりと撫でると、高めの声で言った。
「お茶会をしようと思うのよ。そうねぇ、日にちは」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるスピナ。そして彼女の耳元で、囁く。
「準備があるでしょ? 私は優しいからね、三日後にしてあげるわ」
「お、お茶会……で、ござっ――あぅ!?」
グィッ!
「何? 私が『おーちゃーかーい』をするのに、文句でもあるのかしら?」
「い、いえ! 滅相もございません!!」
スピナに顎を強く上げられたお手伝いの抵抗する気持ちは全て、消えていく。
――まるで、操り人形のように。
「はぁい、良く出来ました。それでねぇ、そのお茶会で」
頭を下げたままでその声に耳を傾ける皆は見らずともそれだけで状況を理解し、涙をのむ。
(((この人は、独裁者だ)))
「分かった? アメジストを――良いわね?」
心の内を顔に出さないよう必死で隠している、その場にいる者たち。
スピナの持つ強大な支配力にただただ今は、従うしかなかった。
◇
楽しい会話を終えたアメジストとラルミは朝食の部屋へと、向かう。
「楽しかったわ! 忙しい中ありがとう、ラルミ」
「いえ!! 私の方が幸せなお時間を……」
(まるで亡きベリル様と、過ごした時間のようで)
互いに目が合いニッコリと、微笑んだ。
主な話題はアメジストの母、ベリルのことであった。それは父であるオニキスから聞いていた話とはまた違った視点で(お手伝いたちから見たベリル)さらに素敵な母の姿を知れたアメジストにとって、貴重な時間となったのである。




