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80.願望


「旦那様……いや! ベルメルシア家当主、オニキス様。貴方に、最後の頼みがあります」

「あぁ、最後だ。聞こう」

 オニキスのひんやりとした声はどこか、優しさを感じ温もりが沁み入ってくるようだ。


(ここでの暮らしはとても有意義な時間だった、な)

 胸に手を当て真剣な眼差しでオニキスを見つめるジャニスティは、今自分が出来る最善を尽くそうと必死に思いを込め、その言葉を発した。


「この可愛い命を救ったアメジストお嬢様を、咎めないでくれないか? そしてこれは勝手な頼みだが、クォーツの事をこのベルメルシア家においてあげてほしい」


 途中振り返ったオニキスは腰を上げ、歩きだす。重くしっかりとした口調で話すジャニスティの言葉を聞きながら微笑み、少しずつ近づいてきた。


「私はここでたくさんのことを学ぶ機会を、オニキス――貴方から頂いた。そして今、こうして何不自由なく過ごし幸せに生きていられるのも、貴方のお陰だ。心から感謝している」


――『……人生リベンジしてみないか』


 ジャニスティは酔い潰れていたあの夜、オニキスが自分に声をかけてくれなければ、あのままこの身はぼろぼろに劣化して消えていっただろう、エデとの出会いがなければ、もらった名である“ジャニスティ”としてこの世に居ることもなかったと、心底思っていた。


――だからこそ。

「もう人生に悔いはない。だから、如何なる処罰も私が受ける覚悟だ」


 その最後の言葉をジャニスティが言ったのと同時に目の前で足を止めたオニキス。その柔らかく、まるで赤子(あかご)に向けるかのような穏やかな表情でジャニスティの生きる瞳を、見つめた。


「ジャニスティ、分かった」

「ありがとうございます」

 深々とお辞儀をする彼の心は不思議と、悲しみや寂しさではなくホッと安堵した想いで、満たされていた。


(思い残すことがあるとすれば、アメジストお嬢様を最後まで護り、幸せを見届けられないことだな)

 頭を上げたジャニスティもまた、穏やかな表情でオニキスと目を合わせる。


「お兄様は、何処かへ行ってしまわれるのですか?」

 終始、二人の話す様子を大人しく見つめ聞いていたクォーツが、ふと声をかけた。


「どうかな? たぶん……いや、きっと遠くへ――」

「え、え? そんな」


 オニキスはその白く美しく、愛らしいレヴシャルメ種族であるクォーツの姿に目を細め笑い、抱き上げるとジャニスティへ話した。


「君の願い、頼みは承知した。では処罰を」


 ジャニスティは静かに、頷いた。



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