75.潜考
――性別のないレヴシャルメ種族である、クォーツ。
当面の間この地で人族として平穏無事に暮らす為に女の子として生きていこうと、ジャニスティと話し合っていた。
「お初にお目にかかります。私はジャニーの妹、クォーツと申します。本日は旦那様にお会いする事ができ、大変光栄に存じます。以後、末永くお見知りおき下さると幸いです」
深いお辞儀で腰を落とし、模範的な挨拶を見せたその少女――初めて顔を合わせたクォーツの素性をまだ何も知らないオニキスは“ジャニーの妹”という言葉に、違和感を覚える。
「……今、妹と言ったかい?」
その言葉にジャニスティの決意は、揺らぎ始める。
(やはり、これは雲行きが怪しいな。どこまでオニキスに明かすべきだろうか)
ここにきて再度、ふと悩み考えてしまう。
オニキスの事を信頼していないわけではない。しかし彼は人族であり厳しい目を持った商人、そして亡き妻ベリルに代わりこのベルメルシア家を命を懸けて最後まで守ると皆の前で宣言する、そんな人物である。
(いくら、エデの後ろ盾があると言えど)
――危ない橋を自ら渡る事はない、そういう人だ。
そうこの時、ジャニスティにはある懸念があった。
オニキスの元で働くきっかけとなったあの日、そしてあの地下での出来事。あれから月に何度かはオニキスに誘われ店へ雑談に行っている、ジャニスティ。
その際、他の種族との交流も分け隔てなく接しいつも楽しそうにしているのは、知っていた。
しかしその店には一人としてレヴシャルメ種族の姿は、見当たらなかったのだ。
(結末の、想像ができないな)
本当であれば全てを話すべきである。が、しかし話せば追い出されるかもしれない――そう考えれば考える程、今話した“妹”という事にした方が良いのではないか? そう思い悩んでいたのだ。
その娘であるアメジストの今後に響かぬよう策を練りつつ、クォーツの未来は責任を持って自分が背負っていくと、心に決めている。
思考を巡らせ交錯する中、ジャニスティは――。
だからこそ、判断に迷っていた。
◆
驚くオニキスの目の前に現れたその子はとても可愛らしく、艶のある髪はジャニスティと同じ色――綺麗な天色をしている。
(珍しい髪色だからな、信憑性は高いが……)
そう心の中で思う反面、最初に感じた違和感は、拭えない。
さらにクォーツの聞かせ見せた素晴らしい挨拶もさることながらその、美しく品格のある立ち姿にも、目を見張るものがあったのだ。




