7.原因
二人はなぜ? この子が事件に巻き込まれたと思ったのか? それは背中にあるはずの美しく気高き羽が、バッサリと切られていたからだった。
「お嬢様」
「…………」
「この傷は医者を呼んでも治せません。そしてこの瀕死状態にまで陥っている原因は、羽を切られたからだと考えられます」
「えぇ」
少しの間を置いた後、彼女が気のない返事をする。
「アメジスト様。この子、私に一任していただけませんか」
ジャニスティの言葉に、アメジストは目を見開きとても不安気な表情になった。
「それはどういう……ジャニス、どうするつもりなのです?!」
幼い頃からお世話をし支えてくれているジャニスティ。忙しい両親に変わりアメジストが寂しくないよう傍にいて、そして一緒に時間を過ごしてくれる彼に、ある時は親のように甘え、またある時は兄のように慕って。敬う気持ちを持っている。
アメジストもジャニスティの事を、心から信頼しているのだ。
そんな彼に「任せない」と、言っているわけではなかった。
「アメジスト様」
少し曇った表情になるジャニスティを見て、アメジストは真意を伝える。
「疑っているとかではないのです。しかしあなたが何を考えているのか、私には分からない。だからお願い、ジャニスの考えを聞かせてくれないかしら?」
その偽りなき真っ直ぐな視線で彼を見つめ、真実を探す彼女。
――まるで本当に、神秘の宝石のような瞳だな。
「……承知致しました」
しかし一刻を争う状況に変わりはない。こうしている間にも弱っていくその子。時間がかかる程、助かる可能性は低くなる。そんな事には決してならぬよう、ジャニスティは手短に説明をと告げた。
二人は手を止める事なく話しながら、その子の衣服を脱がせ濡れた身体をバスタオルで拭く。そして肌に負担の少ないふかふかの毛布で包み込み、アメジストは優しく腕の中へ抱いた。
「お嬢様もご存知の通り、レヴ族には魔法を使う力があると言われています。断言はできませんが恐らく、その命となる魔力は羽から放たれ補われる。その為この子は羽を失くした事が深傷となっているのでしょう」
「それは、つまり?」
「はい、結論から申し上げます。この子の背中にもあったであろう、美しく気高きレヴシャルメ種族の羽。それを元の形に――復元するほか助かる方法はありません」
「元に戻すだなんて!」
――そんなの無理よ。
辛く悲しい現実。
アメジストはその現実から目を背け、逃げたい気持ちになっていた。




