66.回想 +
その男が放つ眼光炯々とした表情は場を一気に緊張した空気へと、変える。それはまるで、すべてを見透かしているようであった。
「そうかい? はっは、若い者には困ったものだな」
ジャニーの何にも興味がないと言わんばかりの口調をやんわり注意し正すかのようにその男は、少し笑い話す。
「私の名は“エデ”だ。よろしく、ジャニー君」
(は? なんだよ、それ)
「……エデさん、それも通称ですかね?」
人に苗字が無いわけがない、結局本当の名前は俺なんかには言えないんだろうと腕を組み、不機嫌に下を向くと表情を隠すように顔を伏せる、ジャニー。
「いいや、本名だ。まぁそうだな……君の疑問は、もちろん分かる。が」
エデという男は手を組みテーブルの上に肘をついた。五秒程目を瞑りまた、口を開いた。次に伝えられたその言葉を聞きジャニーは、一驚を喫する。
「苗字は無い。何故なら私は君と同じ種族――『サンヴァル族』だからだよ」
ガターンッ!!!! バンッ!
「そ、そんな馬鹿なっ?!」
あまりの衝撃にジャニーは座ったばかりの椅子から、飛び上がる。その勢いでテーブルを両手で叩いてしまった。
「落ち着け、ジャニー。まぁ座りなさい」
オニキスは怒る事なく彼の背中を擦ると優しく、宥める。そして被っていたハットを脱ぎ「ゆっくり話し合おう」という姿勢を見せた。
「んあっぁ、悪い。つい……エデ、さん? からは同じ匂いがしない。だから俺は人だとばかり――」
おとなしく椅子を起こし再度座る、ジャニー。
「ありがとう、オニキス。さぁ、冷めないうちに食べよう」
その夜からジャニーはエデの家で三ヶ月程お世話になり、暮らす事となった。世の常識から言葉遣い、知識や感情のコントロールまでも指導を受け「人族の中で安心して生きてゆく術」を学んだのである。
その後、エデから“ジャニスティ”との名を与えられ送り出された彼はベルメルシア家の大切なお嬢様、アメジスト専属のお世話係を任されたのであった。
◆
カー……ン。
(あぁ、もう時間か)
待ち合わせ場所の窓に腰を下ろしたまま穏やかに射し込む月明かりの中、すっかり昔の思い出に浸っていた。あっという間に約束の時間がきた事に彼は、少し驚く。
「無用心ですよ、窓を開けたままでは」
優しいエデの声にフッと微笑し安心感を得たジャニスティは、顔を出した。
「何だか昔の事を思い出して、気付いたら今だ。自分でも驚いたよ」
もちろん良き思い出だと、エデを心配させぬよう伝えた。
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