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54.食事


 ベルメルシア家の食事はとても静かだ。お手伝いたちの歩く足音や椅子のきしむ音、(まばた)きをする目の音まで聞こえるのではないかという程に皆、静黙している。


 カチャ、カチャ……ン。


 食事の終わる合図を見ると素早く食器担当がアメジストのテーブルへ向かい、皿を片付け始めた。


「あ、いつもすぐに気付いて下さって、ありがとうございます」

 にっこりと笑顔を向けお礼を言う彼女だったが相手はいつも通り、決められた言葉を変わらず抑揚のない声で、答える。


「いえ、お嬢様。これが私の仕事ですので。身に余るお言葉、恐縮でございます」

 そう言うと深々とお辞儀をして去っていった。


(また失敗だわ。私は皆の笑顔が見たい。ただ、それだけなのに)

 アメジストの心の奥には、いつか笑って皆が答えてくれないか、一緒に楽しく話してくれないかなと思い願い、コミュニケーションを図っていた。その為に様々な方法を模索していたのである。


 食後、アメジストはいつもお手伝いたちにこうしてお礼を言う。そんなやり取りを日々聞いている父、オニキスは少し寂しそうな悲しいような表情を浮かべた。そして可愛い我が娘を慰めるように、声をかける。


「アメジスト、美味しかったかい?」

「え? あ、はいお父様!! とてもとても美味しく頂きました」


 父の優しさを受け幸せな気持ちになるアメジスト。この時、彼女はジャニスティとの秘密の時間を知られずに、誰にも気付かれていないと安堵し穏やかな気分で、談笑を始めた。


 その“父娘(おやこ)”の姿に強く反応し、面白くないという顔と視線で睨みつけているのは継母であった。


「ちょっと、そこの!! 何をボーッとしているの!? 私の食器も早くさげなさいよ」

 そう、継母スピナの声が広い部屋に響き渡る。


「も、申し訳ご、ござい……ひゃっ」


 パシッ!!

「ちょっと手が当たったわよ! アナタごときが、私に触れないでちょうだい」


 フンッと鼻で笑いお手伝いの手を弾くように叩いた。それからスピナはふと何かを思い立ったかのように、話し始める。


「ちょっと、そこ」

 指をさされたお手伝いは今にも泣き出しそうな声で震えながら、スピナの方へ顔を上げる。


「は、い……奥様。お呼びでしょうか」

「紅茶を飲みたいわ」


 そうねぇ〜と薄ら笑いを浮かべ、ニヤッとアメジストに目をやった。


 そして――。

「ベルメ苺のミルクティーを」

「……えっ」

「早く持ってきなさいっ」

「は、はい!」


 急ぐ者――。

 しかしバタバタと、物音を立ててはならない。


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