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48.隠扉 *


 回復を(しゅ)とするジャニスティだが、他の魔法を使えない訳ではない。


 例えば継母に見つからぬように張った、無音の魔法。そして今は一時(ひととき)でも離れてしまう大切な主人であるアメジストを護るため、抱きしめた瞬間にかけた庇護(ひご)魔法。これは万が一に通路で彼女の身に何か起こった場合に(かば)い護るためである。


 他にも使える魔法はあるのだがいずれにせよジャニスティは治癒回復魔法の使い手であり、それ以外はあまり強い魔力を持っていないのである。



「――――頑張ります。エヘヘ」


 期待に胸を膨らませながら、しかし彼の言った注意事項を念頭に置きつつアメジストは、扉をゆっくりと開けた。


 ガチャ……キィー。


「お嬢様、お気をつけて」

「ありがとうジャニス。クォーツの事よろしくね」


 本心は彼女の事が心配で気が気でないジャニスティであった。が、全く顔色を変える事なくアメジストへ笑いかけ、答えた。


「はい、ご心配なく。お任せ下さい」

 その表情にホッと安心するアメジスト。そして通路へ足を踏み入れようとしたがもう一度、ジャニスティの方へ向き直る。


「ジャニス」

「はい、お嬢様。いかがなさいましたか?」

「ベルメ苺のミルクティー、とても美味しかったわ。ありがとう」


 ジャニスティの部屋で窓から射し込む温かい太陽の光を感じた時ように、優しい空気が二人の周りを囲んでいる。


 その何気ないお礼の言葉や「美味しい」というたったそれだけの感想すら今の彼には、幸せに思えてならなかったのだ。


「ありがとうございます。いつでも喜んでお作りいたしますよ」

――貴女(あなた)だけの、特別なミルクティーを。


 紅茶を残した事を気にしていたアメジストは「ごめんなさい」と伝えると、笑顔で歩き出す。


「また明日(あす)、必ず」

 扉が閉まるのを見守るジャニスティはそう、呟いた。


 ガチャン――。


 隠し扉の中に右足から一歩、それから扉の閉まる音を背に目を瞑って数歩、進み入った。


(よし! 振り返らない、前に集中!!)

 アメジストは注意事項を心の中で復唱し、気持ちを落ち着ける。わくわくと楽しみにしながら扉の中へ入ったとはいえ、初めての経験に不安がない訳ではない。


「まずはもう一歩! 歩き出さなくちゃ」

 ゆっくりと(まぶた)を開き前を見る。真っ直ぐと続く通路を見たアメジストはなぜか、ドキドキしていた。


「すごい素敵……」

 その道は彼女が思っていたより綺麗さが保たれ、とても明るい。そして足元は美しい絨毯(じゅうたん)の床になっており靴音響かず、静かな空間であった。


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― 新着の感想 ―
[一言] いいですね アメジスト様が絨毯を踏みしめる様子が思い浮かびます(#^.^#)
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