469.自習
(アメジストちゃんには、自分の素敵さにもっと気付いてほしいから!)
「悲しいことに、この学校にもまだ種族間の溝はあるよ。でもね、アメジストちゃんは躊躇せず、臆することもなく、分け隔てない行動をしていて。それってなかなか出来ないことだと思うの!」
包み隠さず飾らないフレミージュの言葉にアメジストの胸は、熱くなる。
「その気遣いと優しさに支えられてる子は、たくさんいるはずだよ? それをアメジストちゃんは無意識にやってる。私の方こそ尊敬しちゃうし、すごいなぁって思ってるんだから!」
「フレミージュちゃん……」
過ごしてきた環境が原因なのか。元々、自己評価が低いアメジストは日々の学校生活でどのように立ち回れているのか。その動きが皆にどのような影響を与えているのか、それを改めて考えたり想像したことはなかった。
「アメジストちゃんはすごいんだよ。だからもっと――“自信持って!” ね?」
――あっ。
彼女からの言葉にふと昨日の出来事が蘇る。
それは茶会の日に学校を欠席する件で先生に呼び出された昼休みのこと。その時に『自信を持って進みなさい』と優しく諭してくれた先生からの心強い、助言。
(先生も、フレミージュちゃんも。私の弱い心に気付いて、応援してくれているんだわ)
「うん……ありがと」
「そうそう……っと! いっけなーい、自習~自習~」
「えぇ、そうね」
普段から授業中に私語などしないアメジストはすぐに姿勢を正し気持ちを切り替えた。見習おうと大人しくなったフレミージュも配布された資料へ目をやり静かに読み始める。
とはいえ滅多にない自習時間に代わりの先生もいないとあってクラス中の皆も気が緩む。小さな声でぽつぽつこそこそと微笑し、楽しそうに話しているのが分かった。
ふと、自然と和む教室内の雰囲気がなんだか新鮮に思えたフレミージュは嬉しい気持ちになり「ふっ」と吹き出すように笑う。その様子を不思議そうに見たアメジストは彼女に声を掛けてみた。
「フレミージュちゃん、どうしたの?」
「んふふ、なんでもな~い」
(何でかな? 今日はすっごく楽しい!)
その後、会話を再開させた彼女の満面の笑みにアメジストもつられ、クスクス笑ってしまうという一時間を、送ったのだった。
◇
ガチャ、キィー。
「足元にお気を付けください」
「ありがとう、アンロ」
――時は遡り、深夜十二時過ぎ。
体調が悪いと顔を見せなかったスピナの行動は、それ以前の深夜。
密かに開始されていた。




