464.世界
(親元を離れて、知らない土地に――)
「フレミージュちゃんは、なぜこの学校が良かったの?」
フレミージュはとても明るく誰とでも気さくに話せる。そのコミュニケーション能力は極めて高いため恐らく友人も多くいただろう。そんな故郷をなぜ離れ一人この街へ出てきたのかと彼女にとっては素朴な質問だった。
するとフレミージュは自信に満ち溢れた笑顔で力強く答える。
「私ね、小さい頃からみんなと遊んだり、お話したりするのが大好きで。でもさ、古い考えが残る大人が多くって。私は、世界中の誰とでも仲良く楽しく暮らせるようにみんながなればいいのに! って思うの。だから、様々な種族がいるこの学校へ通いたいなって」
――あっ。
その時ふとアメジストは思う。
彼女もずっと『種族関係なく皆仲良しでいられる世界になればいいな』と思い考え、過ごしてきた。それは会ったことのない実母ベリルの意思を教えられずとも引き継ぐように。
しかし自分はこの街から出たことがなくそれどころか学校へ行く以外で屋敷から出ることも、ほとんどなかった。十六年間、表向きはベルメルシア家の御令嬢として大切にされ過保護に育てられてきたと言えば聞こえは良いが結局、継母スピナの命令により操られた籠の中で生きてきただけだ、と。
(私は、自分が生きる狭い場所の周囲にしか目を配れずにいて。その先を考えていても、いざ行動を起こしたことなどなかったわ)
――そうよね。世界はこんなに広いのに……。
続けてフレミージュは自身の故郷についても少しだけ、話し始めた。
「私の実家はさ、小さな町にあるんだけど。う~ん、そうだなぁ、全体ではとっても大きくて賑わいのある街の中に、ポツンとある町なの。それで多分、余計に新しい風習を嫌うんだろうけど……」
「そうなのね。すごい、フレミージュちゃんはすごいわ! 自分の思いを達成するためにきちんと動いているんですもの」
アメジストは自分の胸で両手を組み瞳を潤ませる。そして尊敬の眼差しで彼女を見つめ優しく微笑む姿は見惚れるように美しく、アメジストの気持ちはフレミージュの心へと沁み入っていく。そのしっとりとした雰囲気に慣れていない彼女は「見つめられると恥ずかしい」と八重歯を見せ笑いまた、口を開く。
「アメジストちゃんも」
「えっ?」
「アメジストちゃんも、同じ思いを持ってるんじゃないかって」
「あ、の。どうして……」
彼女の言葉にアメジストは目を丸くし驚きを隠せずにいた。




