463.敬称
「アメジストちゃあーん!」
「ふぇっ!?」
「お願いがあるの!」
「あ、えっと。お願い、ですか?」
ふわっと笑み『お話はまた今度』と教室へ入ろうとすると飛びついてきたフレミージュは向き合った状態で両肩をパフッと、掴む。その予期せぬ行動に驚き思わず声が裏返ったアメジストは頬を桃色に染めていた。
目の前にはウルウルと淡緑色に輝くフレミージュの瞳。そこに今まで視えなかった力強い光を感じたアメジストはその眩さに思わず、瞬きをする。
(もしかしてこれは、フレミージュさんの魔力?)
しばらく彼女から目が離せなくなったアメジスト。見つめられて少し恥ずかしそうにしたフレミージュはお願いの言葉を、伝える。
「あのね、アメジストちゃん。私の事は、“さん”付けじゃなくて『フレミージュ』って、呼んでほしいなって!」
「えっ」
「私……それに皆も! もっともーっとアメジストちゃんとお話しして、仲良しになりたいって思ってるの。だからもし良かったら、嫌じゃなかったら。そう呼んでほしいな」
「……ありがとう、とっても嬉しい。私も皆と仲良くなりたいです。えっと『フレミージュちゃん』って、呼んでもいいかな?」
「もちろんだよぉ! ホントに!? すごい、うーれーしーよぉ!」
「うふふ」
(可愛い、フレミージュちゃん)
――誰かに必要とされている。
意識していたわけではないが積極的にクラスメイトとの距離を縮めようなどと考えていなかったアメジストはこの時「もっと関わり言葉を交わしたい、心で通じ合いたい」と、そう初めての思いを胸に抱く。
「そうそう! あと、私が髪を長くしている理由はね」
「え……」
(私さっき、フレミージュちゃんへきちんと言えなかったのに。聞こうと思ったことがなぜ解ったの?)
アメジストが聞きたいと思っていた事はさほど重要ではない。その為『また今度機会があれば聞こう』と半端なままで終わらせた話であったのだが、しかし。何を言おうとしていたのかを察していたらしいフレミージュはニカッと笑い、八重歯を見せる。そして人差し指を自分の唇に当て片目をぱちっと瞑り一転――いつもとは違う囁くような声で、話し始めた。
『実は、私の故郷に関係があってね』
『故郷……』
アメジストは少しだけ首を傾げる。
「あっ私、隣町の出身で、この学校へ通うために親元離れて暮らしているの」
「そうだったの。私、全然知らなくて……」
するとフレミージュは「皆にも言ってないかも」と、はにかむ。




