462.心安
「あの、フレミージュさん」
「うんうん、どうしたのぉ?」
ニカッと笑い応えた彼女の笑顔が眩しく、ふと目が合い恥ずかしくなりながらも微笑み返したアメジストは思い切って言葉を続ける。
「う、ん。えっと、本当に艶々で、すごく綺麗な黒髪は……その――」
フレミージュは努力が必要な程に維持するのが大変だと言いながらも長く美しい髪をその長さまで切らずに過ごしている。そんな彼女を見ていてアメジストはどうしてなのかなぁとただ不思議に思い、それを聞いてみようかと思っていた。
ガラガラガラー!
「――っ!」
「あれ? どうしたの、二人とも入口に立って」
「んーん、なんでもないよ! おっはよー」
「おはよ~、フレミージュ」
「みんな、どこ行くの?」
「一限目、自習らしくて、資料取りに行ってくる」
パタパタ……。
先に来ていたクラスメイトたち数人がいつものように爽やかな笑顔で教室から飛び出し、手を振る。それに「いってらっしゃーい!」とブンブン大きく腕を振って返事をしたフレミージュの元気いっぱいな姿にアメジストは再度、微笑む。
普段から顔色や姿勢を変えることなく落ち着いた雰囲気のアメジスト。どのような状況でも冷静で穏やかに会話ができ学校内でも皆の意見をまとめ簡潔明瞭な答えを、導き出す。
凛とした姿勢と心を保つことが自然と身についている彼女の振る舞いはベルメルシア家の御令嬢としての意識が常に、働いているからだ。
こうして屋敷の中だけでなく学生生活すら無意識に気を張って過ごすアメジストだが実は気付いていない事が、一つある。それはクラスの皆にとって頼りになる存在でありそして何よりも――かけがえのない大切な仲間だと思われているということ。
――まるで母ベリルが街の皆から全幅の信頼を寄せられていた事や、父オニキスのように魔力を持たずとも優れた能力で物事を解決させる実力があり、頼られる存在であるように。
「アメジストちゃん! お話お話♪ 続きはぁ~?」
「あの、えっと……大丈夫! ごめんなさい、フレミージュさん。たいしたお話ではないの。授業も始まるし、また今度ゆっくりお話しできたら……いいな」
(上手くお話できなかったけれど。いつか機会があれば)
いつも笑み流れるように話すアメジストがこれまで見せたことのないような反応と少しだけ眉を下げて頬を赤らめた困り顔な表情。そんな彼女の年相応な様子に思わず「なんて可愛いの!」とフレミージュは呟き嬉しくなり顔は綻ぶ。




