460.確固
“ワァァ!”
「ノワさんに……そんな風に言っていただけるなんて」
「私たち、一生懸命頑張ります」
「絶対に成功させるんだから!」
――「奥様の鼻を明かせて……折ってやりましょうよ!」
それは驚きの発言であった。
同時にノワへの信頼は見えず言わずとも揺るぎないものなのだと、証明された瞬間だ。
普段からスピナの指導と称した辛く苦しい扱いにも耐えてきたお手伝いたちは光の戻った煌めく瞳で、意気込む。
それはこれまでスピナから受けた仕打ちに対する仕返し――などという浅く幼稚な考えではない。皆ベルメルシア家で働く者としての誇り高き志を胸に抱きその思いは誰にも邪魔させないと、貫くためなのだ。
◆
屋敷で働く皆と距離があった、ジャニスティとノワ。
その“ベルメルシア家を守る者たち”の立場や関係は大きく、変化する。
不安と焦りに圧し潰され日時に追われる、茶会の準備。スピナが主催した招宴というだけでも屋敷の者たちは恐れ慄き逃げ出したくなる程の、思いだった。が、しかし――恐怖心を持ちながらも皆で協力し作業を進めてゆくこの経験は後に、皆の団結力を高めることに繋がる。そして魔力を花開かせたアメジストの温かな力を感じ未来に期待感を抱く一部のお手伝いたちを中心に、屋敷の皆の意識も明るく前向きになっていった。
――恐らくこの状況はベルメルシア家の統制を故意に崩そうとしていたスピナの思惑を完全に、外した結果であろう。
そんな中ノワの立場は未だ『スピナ専属お手伝い』であることに変わりない。
エデとマリーの娘であると同時に彼女には自身の生きてきた道、自我があるのは当然のことである。
“本当のノワ”とは一体、何者なのか。
◆
(この数日で、屋敷全体の空気はがらりと変わった……)
――でも、私には理解はできない。しかし、良いことであるのは確かでしょうが。
「不思議です」
ポツリと呟いたノワの小さく可愛らしい声はその心が感じたままの、素直な思いであった。
◇
「アメジストちゃーん! おっはよう」
「あっ! おはようございます。昨日は色々とお世話になってしまって。あの、本当にありがとうございました。また改めて、お話させてください」
校門を入りすぐ。
ゆっくりと並木道を歩き校舎へ向かっていたアメジストに走って追いついてきたのは八重歯の可愛い同級生、フレミージュ。昨日、上級生の妬みから起こった事件で困っていたのを助けてくれた彼女へ、アメジストは感謝の思いを口にしていた。




