457.意外
ノワの返事に「そうか」と応えた彼は言葉少なに続ける。
『午後には私も手伝いに行く』
『……』
『ん? どうかしたか』
『……いえ』
いつもであれば淡々と返事をするだけの、“感情を失くした人形”と揶揄される彼女。しかし今一瞬、息を感じ真っ白な肌が血色を帯びノワは黙りこくる。その反応に普段とは違う感覚を覚えたジャニスティだが此処で余計な詮索は危険だとそのまま、話を進めてゆく。
『茶会まであと二日。だが皆、準備に使える時間にも限りがある』
『はい』
『そこで一つ、提案があるのだが――』
前日の茶会準備で皆の動きとそれぞれの適材適所を見極めていたジャニスティはこの日、負担軽減と時間短縮ができないかと改善を図るための策を、考えていた。
(この屋敷で働く者たちが心の余裕が持てない状況へ陥るのは、一番の危機を感じる事だ)
それが仕事の分担である。
今回のように通常業務もありながら時間のない中での追加業務。全員で同じ場所の作業を片付けていくよりも中と外に分けることで効率化を図ろう、というものだ。
『どうだろうか』
『名案かと』
『……異論はない、か?』
『はい、賛同します』
――本音、だろうか?
ジャニスティは今回「あくまでも自分は補助の立場である」との認識で動いている。その理由はスピナが主催をした以上、主導は命じられたノワにあると理解しているからだった。
(しかし、屋敷の皆が文句ひとつ言わずに彼女の指示に従っているのには驚いたな)
そんな中、あの“独裁者”スピナに仕える専属お手伝いの命令とはいえ一切の小言も聞こえてこなかった前日の様子に内心ジャニスティは多少の違和感を、感じていた。
その答えは――前の日にあった出来事。
茶会準備のため皆へ無理難題な内容の指示を出した時にノワが話した「私個人から一言申し上げたい」とその内容が関係しお手伝いの皆が驚き目を見開くような、衝撃の秘密であったのだ。それが今現在の彼女がお手伝いたちから信頼される理由へと、繋がっているのだ。
――しかしそれはジャニスティは聞いていない、知らない……ノワの秘密であった。
(付き合いの長さもあるが。彼女はエデよりも、輪をかけて考えが読めない)
ハーフとはいえ同じサンヴァル種族の血が流れる者としてノワが持つ能力の高さには気付き、知っている。そしてジャニスティは自身の立ち位置をきちんと弁えつつそれでも真意の見えにくい相手であるノワだからこそ再度、意見はないかと聞き返す。




