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45.実母 *


――ベルメルシア家の庭にはかつて、たくさんの美しい花々が咲き、季節の景色を楽しむ茶会が月に一度は開かれていた。その会には屋敷で働く者たちやオニキスの商業で出入りする関係者までも招かれ、とても有名な茶会だったという。


 その中心にいたのは今は亡きアメジストの母、ベリルであった。その日、その一時(ひととき)は種族も身分も関係ない。ベリル特製のお茶とお菓子を楽しむ時間としてたくさんの笑い声と穏やかな雰囲気が流れ、花園いっぱいに溢れる笑顔。


『皆の笑顔が、(わたくし)の幸せです』


 心優しいベリルがいつも言っていた言葉である。その言葉通り彼女はいついかなる時も自分の事より周りの者の幸せをと、配慮を怠らず尽力(じんりょく)し続けた。


 それからアメジストを身籠ったベリル。当然ながらベルメルシア家だけでなく周囲の者たち皆、歓喜に躍り幸せの光が街中に満ち溢れた。


 そして二月……。

 ふわふわとした雪は月の光りにキラキラと輝く。そんな寒さも忘れる美しい夜に、アメジストは生まれたのである。


 しかし、その数時間後。


 皆の幸福を一番に願い祈り、希望と勇気そして愛を与え続け、誰からも愛された人物。ベルメルシア=ベリルは――息を引き取った。


「原因不明だと?! どういう事だ! ベリル……あぁなんという」


――私の愛するベリル!!!!

 持病もなく、とても健康的だった妻の突然死。

 その日から屋敷の空気は、一変した。


 ベルメルシア家当主オニキスはあまりのショックにしばらく立ち直れず半年程、塞ぎ込んでしまった。


 全ての者に慈愛と言える優しさを注いできた彼女。皆からも同じように愛され慕われていたベリルは、頼れる存在でもあった。それはとても貴重で必要な力を持っていたからである。


「あ~ら? 残念ですわね。あの人がいないと怪我人を助けるのも一苦労?」

 悲しみに打ちひしがれる街の者たちの中でふと、鼻で笑いながら小さく誰かが言う声がした。


 そう。

 アメジストの母、ベリルは――。

 ジャニスティと同じ『治癒回復』を完璧にこなす魔法の使い手だったのだ。



「ではジャニス! また明日の朝に」

 アメジストは期待に胸を膨らませ書庫にある隠し扉の前に立っていた。


「お嬢様、くれぐれもお気をつけて。先程お伝えした事は必ず守って下さい」

 ジャニスティは帰りまでの注意事項をアメジストに伝え、隠し扉から続く通路へ彼女を送り出す。


「えぇ、大丈夫よ♪ 頑張ります。エヘヘ」

 浮ついた気持ちを抑えつつアメジストは、扉の先へと歩いていった。


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