449.堅物
中でも終幕村の皆が面白可笑しく話題にしていたことがある。
――あいつはサンヴァル族だってのに全く血の気がない、浮いた話一つ聞こえてこない。
『はは? 本当に変わった奴だよな』
恋愛どころか女性と関わることも遊興にふけることすらない。ましてや自身の事にも全く興味がないという素振りで相当な変わり者と、噂されていた。
――それは、嘘か誠か。
興味本位で彼の元には暇つぶしのようにやってくる者もおり「奴の化けの皮を剥がして本性を確かめてやろう」などという不届き者まで現れ、鎌かけ声かけ蹴落としてやろうとニヤリ顔で騙しにくる者まで出てきたのだ。
稀に本気で甘く妖し艶めかしく言い寄ってくる者もいたが彼はそれでも一切、相手になどしない。
そして特に悪いことをしたわけでもない彼は当然、逃げも隠れもせず自分本位で孤独に日々を過ごしていた。
こうして流されることのない終幕村にいた頃の彼。
誰が何とどのような言葉を囁き悪戯に魔力を使おうとも、その心身は揺るがない。如何なる状況でも自分以外の者へ靡くことが決してない堅物だと言われた。
そんなある日。
黙して語らない姿勢で耐えてきたジャニーであったが周囲の執拗さにいい加減うんざりしたのか? たった一度、言い返したことがある。
だが終幕村の悪者たちにはその行動も逆効果。
結果的に皆の好奇心を増幅させてしまう事となった。
『やはり、こいつらに常識や通常会話は通用しない』
僅かな期待で心通わせようとした自分が馬鹿だったと改めて確信しその愚かな失敗を二度と繰り返すまいと心に誓い再び、沈黙した。
時は経ち――。
終幕村で暮らす者たちの種族は様々でありその寿命もまた、それぞれである。
噂のように広がっていた彼の変わり者話もいつしか落ち着き、年月が過ぎた頃にはジャニー固有の特異さ(能力)も相まってか陰では“希少”な人物とまで言われ、いわゆる貴重な存在となっていた。
こうして時代とともに周囲の反応が変化してからもなお彼の心には過去の体験が鮮明に残りその警戒心は絶対に、緩めようとはしなかった。
なぜなら薄れたとはいえ互いに揶揄し合い優越感に浸るようなかつての終幕村に蔓延っていた者たちが持つ異常性が完全に消えたとは、言えなかったからだ。
ふと過去に受けた不愉快な扱いや執拗な質疑をハッと思い返す。
――もう二度と、この地に住まう者たちを信用しない。
それは自分を守るため。
そして周囲の者たちを無意味に傷付けないために。




