444.快諾
「そう! 楽しくて良かったぁ。そんなクォーツの気持ちを聞くと、ますます……」
アメジストはクォーツに話しながら美しく澄んだ桃紫色の大きな瞳を細めると首を横に、傾げた。そしてニッコリ笑顔でジャニスティの顔を、ジーっと見つめる。
「え、あの、御嬢様?」
「なんだか、ジャニスも嬉しそうに話していたから。楽しかったのかなぁって」
「ぃ、いえ。普通です」
「そう? うふふ」
「そうです」
無意識だった。
アメジストから言われるまでマリーの話をする際、自分の声が柔らかく変化し自然と出た笑みは心穏やかになっている証だと彼は、気付いていなかった。
そしてこれまで、機会がなかったのもあるが自身がベルメルシア家で働き始める前の過去を彼女へ話したことはなくもちろん三ヶ月間エデとマリーの元で指導を受けつつ生活していたことも一切、話していない。
「改めて、エデ。クォーツの事、ぜひお願いしたいのです」
「えぇ、もちろん。承知いたしました」
「ありがとう。奥様にも、よろしくお伝えくださいね」
(エデも、マリーも。私にとって大切な恩師……いや)
「親の……」
「え?」
思わず呟いた、彼の言葉。
アメジストは不思議そうに反応し再び顔をのぞき込む。
少しだけ、恥ずかしそうにしながらジャニスティは想いを一言に込めて。
「エデとマリーは、私にとって両親のような存在です」
「え! ぁ……ん?」
思わず声が大きくなる彼女の唇を、細長く綺麗な人差し指がそっと抑える。
『内緒です』
『……ぅん』
「んにゅ? あぁーお兄さまってば、お姉さま取っちゃいやぁ!」
「と、取るって、クォーツ!?」
「はは、取らないさ。クォーツはお姉様が大好きだもんな」
「ぶぅー! だってもうすぐ離れるのですから、わたしとくっつき~なのぉ!」
クォーツの感情は“ヤキモチ”とはまた違う。
だがやはり妹にとってアメジストは姉であり特別なのだなとジャニスティは感じ、笑う。
カタ、ガタン。
「もう間もなく学校へ到着ですぞ。御嬢様、ご準備を」
馬の足音、馬車の軋みも音色のように。
ただ静かな時が、流れる。
海から変化した景色を馬車の窓から見つめながらアメジストはふと自分の気持ちを、呟く。
「……たい」
「ん? いかがなさいましたか」
すると頬を桃色に染めた彼女はもう一度、しっかりとした声色で話す。
「私も、エデの奥様に。ジャニスやクォーツが心から信頼する御方に、お会いしたいなって」
「御嬢様……」
はにかむ彼女の顔が彼の胸を再度、熱くした。




