443.静穏
「御嬢様の感じたままで、間違いないと思いますよ」
「ジャニス……」
馬車内になんとも素敵な雰囲気が流れ始め頬を桃色へと染めて笑んだ、彼女。その様子に気付き、ぎゅーっと抱きついたのは――。
「おーねーぇーさーまぁ!」
「ぁ! ク、クォーツ」
「わたし行きたいのですー!」
「えっ?! でも……」
昨日は何かと忙しかったアメジストとジャニスティも同様に慌ただしく過ぎていった一日。そんな二人の会話時間は少なく必要最低限の情報共有のみとなっていたのだ。そのため昨日夕方、学校への迎え前にエデの計らいでマリーのお店へ立ち寄ったことを話す余裕はなく、当然彼女がそのことを知る由はない。
「んキャ! ピカピカぁ~のキラキラぁ~のいっぱいのとこ! 優しし~おばちゃまは、エデおじちゃまの好き好き~なのですわぁ♪」
「はっはっは! それはまた、彼女が聞けばとても喜びますな」
「ぅきゅ~よろこぶ? ヨロコ……あっ! ウレシイですのね!」
「えぇ、そうです。私も自分の大切な人がクォーツ御嬢様から気に入っていただけてとても嬉しゅうございますよ」
「になぅ~! エデおじちゃまも好き好きぃなのですわぁ」
「嬉しいですなぁ。ベルメルシア家の小さなお姫様にそう言っていただけるとは、恐悦至極に存じますぞ」
とても嬉しそうに微笑んでいるのがその背中からも、伝わってくる。
カタカタ、コットコト……。
ゆっくり優しく馬車を進めるエデ。
いつもと変わらず落ち着き滑らかに流れるように走らせながらもクォーツの言葉に少しだけ声を弾ませ、馬の手綱を動かす。
キョロキョロと会話を目で追いかけていたアメジストがやっと、口を開いた。
「あ、あの、えっと……エデ?」
気を使いながらの声掛けにエデは「おぉっと、これは失礼致しました」と話を続ける。
「実は昨日、御嬢様をお迎えに上がる前に少々お時間がありましてな。私の妻が営む店へとご案内したのですよ」
「まぁ! そうだったのね」
「はい、私からお話します」
答えたのは彼、ジャニスティ。昨日立ち寄ったエデの妻マリーが切り盛りするのは宝飾店、そこでクォーツがマリーを気に入り大変幸せそうな表情で飛び回っていたという一連の出来事を簡潔に話す。
「なんて素敵なの! そんなにクォーツが懐いて」
(心から安心できる場所だったんだわ)
「あい! とても楽しいだったのぉ」
クォーツは満面の笑みで両手をバンザイ! その体からはキラキラと輝く光粒を放ち馬車内に広がり、包み込んでいった。




