437.融和
結局クォーツはジャニスティの右肩に乗せられ、にこにこ満面の笑み。御者エデの馬車が待つ入口へとそのまま向かった。
「おはようございます、アメジスト御嬢様」
「エデおはよう。今日もお願いします」
ジャニスティより少し前を歩いていたアメジストは送迎をしてくれているエデへ普段通りの挨拶をするとにっこり、微笑む。
(おや?)
ふと彼女の表情や雰囲気がいつもより明るく舞い上がっているなと、エデの目に映った。
そう。
アメジストの様子がいつもと違う。
なぜか?
その理由はすぐに判る。
「わぁい! エデおじちゃまぁーおはよのございましゅ」
(おやおや肩に乗って……これはまた、ずいぶん打ち解けたものですなぁ)
「おはようございます、クォーツ御嬢様。そしてジャニスティ様、おはようございます」
「あぁ、おはよう」
クォーツとジャニスティにも挨拶をしたエデはこの時、貫禄ある顔が崩れ皺はさらにくしゃっとなる程に微笑む。それは声にしない思い――エデが見たことのないジャニスティの幸せそうな顔を見られたからだ。彼が柔和で表情豊かな姿を見せ輝いていることに驚きまた、喜んだ。
「フッ――」
「ちょっ、エデ。今、笑ったか?」
「いえ、ゴッホン! 失礼しました。クォーツ御嬢様が可愛らしいものですから、ついつい笑顔になっただけですがね」
「みーんな、にこにこしてるのです!」
「あぁ、そう……そうだな。クォーツ、お前のおかげだ」
ジャニスティはゆっくりと地面にクォーツを降ろすと優しく頭を撫でた。
「んキュぅあ~!」
妹のご機嫌を確認すると彼はいつも通り馬車へ乗るアメジストを支えるための手をスッと、伸ばす。
「アメジスト様、どうぞ。足元にお気を付けください」
――ぎゅっ。
(あたたかい、大きな手。こんなにドキドキするのに、とても穏やかな気持ちで)
「あ、ありがとう……ジャニス」
ドキンッ――。
(いつもと同じ。なのに私、どこかおかしいのかしら? 心臓は早くなるのに、身体中がジャニスの優しさに包まれてゆくみたいで……)
「とても、落ち着くの」
ぽつりと聞こえないように呟いた、彼女の声。
「御嬢様? いかがなさいましたか」
もちろんその言葉は彼の耳には、聞こえていない。
「ふぇっ!? な、なんでもないのよ!」
「そうですか……しかし、お顔が赤いようにも見えますが。もしや、お加減が優れないのでは」
「い、いいえ! ほら見て、元気いっぱいです! 気にしないで、ジャニス」
彼気付かぬ、彼女の想いが溢れる。




