434.団欒
「ねぇねぇ、お姉さまぁ。この赤いまんまるのは、なぁにですの?」
「え? うふふ! これはね、トマトっていうのよ」
「とまて、とま……トナト!」
『コソッ――(と、ま、と、だ。クォーツ)』
「あっ! と~まーと、ですのね♪」
「そう! 『トマト』――とても美味しいのよ」
ジャニスティが話した限りでは食材の種類をほぼ知らないクォーツはアメジストから赤く丸い野菜を、教えてもらう。しかし初めて聞くその名称が一度では声にならない。そこへ兄であるジャニスティが、こっそり耳打ち。
すると二度目はきちんと、言えた。
「わぁー! おぃしぃですのぉ!」
――キラキラ……!
「あっ」
喜びで無意識に光り輝きを増した魔力の粒を纏うクォーツ。それをアメジストは心配そうに見つめ彼の顔を窺うが、動じていない。
そしてクォーツへ「力を抑えるように」とまた、耳打ちしていた。
そんなジャニスティは――仮にこの光の粒が周囲に見えていたとしても、自分の妹であるクォーツが魔力を使えてもおかしいことなどない。不思議に感じる者はいないだろうと心の中で、呟く。
――しかしあの時に視た【白く美しき夢想の世界】は。
自分とアメジストにだけ見えていたのだろうかと、ジャニスティは思う。
(まぁ、こればかりはクォーツ本人へ力の根源を聞くしかない)
だがそれはまだ、無理な話。
そう、未だ【レヴシャルメ種族の力】については謎が多く、不明なままなのだ。
「ウフフ」
「ん、御嬢様? いかが……なさいましたか」
いつの間にかぼーっと考え事をしていたジャニスティは彼女の笑う声でハッと、我に返る。
「いいえ、何でもないの。ただ、ジャニスは本当に優しくて、面倒見がいいなぁって」
「いえ、そのような……私は何も。お気になさらず。お食事をお楽しみください」
「ふふ、そうね。ありがとうジャニス」
その二人が話す何気ないやり取りに「ほぅ、なるほど」と、オニキス。
(そうか。アメジストもだが、ジャニスも柔らかな表情をするようになった)
父にとっては未来を想う微笑みの種である。
屋敷で働く皆の笑顔、可愛い愛娘アメジストの笑顔、新しく家族となり溺愛するクォーツの笑顔。
そして、全幅の信頼を寄せる心強い味方――サンヴァル種族のジャニスティの存在。
「私は、一人ではない」
(君の大切な者たちを、私なりに護ってみせるよ。ベリル……)
各々が、様々に考え、思ったこの日。
オニキスもまた、いつもとは違う充実した朝の時間を過ごしたのだった。




