433.料理
コトン、カチャ……コトッ――。
「ぅふにゅあ~……」
「お待たせ致しました。本日の朝食は――――」
ベルメルシア家の献立は天気や気温による身体への負担や影響を考え日々、作られる。この日は野菜中心のメニューに加え少量でも体力を持続することのできる多くの食材を使用し、準備されていた。
「まぁ! すごく美味しそうね」
「んきゅッ! はい! おいしそです~」
運ばれてきた料理に頬を真っ赤に染め興奮気味なクォーツの茶水晶色に近い美しい瞳は、吸い込まれるような輝きを放つ。わくわくとして落ち着かない気持ちを抑えるように両手をぎゅーっとテーブルの下で膝に揃えお利口に待っていた。
しかしその、こぼれんばかりの笑みからは目の前に並んだ食事への期待感が溢れ嬉しさがひしひしと伝わってくる。
「……ん?」
ふとオニキスは目の前に並ぶ料理を眺めいつもと違うように、感じた。
(朝食にしてはずいぶんと。今日は彩りが豊かだな)
「うふふ。クォーツ、嬉しいの?」
「うぅ~ふぁいッ! うれしうれちーですの!!」
するとその視線の先でアメジストから頭を撫でられキャッキャと喜ぶクォーツの姿が目に入り父、オニキスは愛娘二人の笑顔に「あぁ、なるほど。そういうことか」と、納得する。
(クォーツに早く屋敷での生活に慣れてほしいという思いが、料理から伝わってくるようだ)
彼は“彩り豊かな食事”の目的をすぐに理解する。
テーブルには子供が喜びそうなワクワクする形や色とりどりな料理の数々が置かれていたからだ。
ベルメルシア家の屋敷で働く者たちの心の中にまだ――ベリルの思いは風化されず残っている。オニキスは「この心遣いはさすがだ」と心の中で彼らへの敬意を表する。
(しかし本当の姉妹かと思う程に、アメジストとクォーツは仲が良いのだな)
ほんの数日で築かれたであろう信頼関係。
自身の娘ながら尊敬すると心の中で、呟く。その後ろで真っ直ぐと立ち控えるのはいつも通りの冷静沈着な表情で警戒を緩めない、ジャニスティ。
(ジャニスは変わらず真面目だな)
だが天色の優しい眼差しが長めの前髪からふわっと見えた。
そして再び愛娘に柔らかな目線を向ける。
オニキスの言葉を合図に「いただきます!」と言い食事を始めたクォーツはほっぺに手を当て、笑う。
(たとえ血の繋がりがなくとも……)
笑顔で幸せそうな三人を眺めているとこちらまで嬉しい気持ちになる。
そう微笑んだオニキスは朗らかな視線を“子供たち”へと送った。




