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432.活気


「少なくとも明日のお昼までにいらっしゃることはないでしょう――」


 周囲の変化を気にする様子はなく淡々と話し続ける、ノワ。


 いつもであればまるで見張っているのかと思うくらいにスピナは屋敷内を歩き皆に、圧をかけて回る。それは遠くからでも背筋が凍るほどの気配に(おのの)き突刺すような視線で監視され、ある時には躾と称して故意に激しく当たり行き過ぎた暴言と罵声を浴びせられる。その言動により日々の恐怖で皆の心は怯え、荒んでいた。


 それがなんと驚くことに今日は食事にも参加しない……それどころか屋敷内を歩くこともないのだという。


 そうはっきりと言い切ったノワの眼光と明言に疑いの余地はなく「これは絶対に(くつがえ)ることのない状況なのだな」と屋敷内で働く者たち全員が、感じていた。


――しかし相手は他の者を(あざむ)くことが趣味のような、スピナである。


 ではなぜ。

 専属お手伝いでありまた主人(スピナ)に従順な表情無き人形であるノワの言葉を鵜吞みにし、皆が信頼するのか?


 それは昨日の朝、茶会準備の指示をしたノワの最後の言葉にある。


――『()()()から一言申し上げたいことがございます』


 ここに衝撃の内容がある。

 それが皆の心を掴み、そして動かしているのだ。



 スピナのいない安心できる朝の陽光を感じる頬は緩み、ホッとした気持ちなのだろう。


 そんな皆の隠しきれない穏やかな表情を見たオニキスはその光景に濃い赤茶色の瞳を輝かせ、驚く。


(今日は皆の動きに活気があるな)


 あくせくと働き懸命に食事の調理をする料理人や屋敷を美しく維持するため忙しく動き走り回るお手伝いたちは、彼が申し訳なくなるぐらい日々辛そうな顔をしている。


 が、しかし。

 この日は皆が別人のように笑顔で会話している姿が彼の瞳に映り、目を細めたのだ。


 ベルメルシア家の屋敷内でスピナが支配力を行使してからというもの、忘れかけていたのは――“心のゆとり”、である。それが今、楽しそうな表情から伺えたことで身に沁み感じられた理由だ。


「クォーツ御嬢様の、お好きな食べものは何でしょうね」

「そうそう! 私、聞いてみようと思っていたのよ」

「私もよ。美味しいものを作って差し上げたいわぁ……」

「おぉ! それはいいね。甘いものはお好きだろうか」


 囁き声で一言、二言……。

 終わりには小さな微笑まで聞こえてくる。

 思わずオニキス自身も笑みが溢れ心にぽかぽかと温かさを、感じた。


 その明るい話題の内容は、クォーツを喜ばせたいという皆の思いからくるものだ。


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― 新着の感想 ―
クォーツちゃんは皆から愛されているのですね(#^.^#)
う〜ん。 やっぱりベルメルシア家を事実上支配していたようなスピナの罪は重いと思うなぁ。 これが封建制の貴族家ならお家簒奪で一家郎党…ってことになるんだけどなぁ。 でも、ラルミさんがかなりの重要人物と…
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