431.各々
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いつもと変わらぬ朝。
しかしこの日は各々、いつもとは違う朝となっていた。
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アメジストは初めてクォーツと迎えた清々しく幸せいっぱいの朝。その後は挨拶へ来たラルミとの重要な話――『ベルメルシア家血族に伝わる隠された力について』の機密を聞き身の引き締まる思いになりそして母ベリルの偉大さを改めて、感じた。
ジャニスティは会合から始まり、書庫で調べものをするも詳細掴めず溜息をついていた矢先――誘われるように光差す本棚へと向かい花の本を手にする。そして隠し扉へ……驚くことに中でベリルとの初見を果たし、調査していた件について本人の口から聞くことが出来た。その後、出口である倉庫でばったり会ったラルミ。時間の関係上少ない会話からも打ち解けるには十分であり今後も、問題解決への糸口となる光が見えてきたなと確信する出来事となった。
そして一番、頭を抱えているであろうベルメルシア家当主オニキスの、迎えた朝は――。
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ガチャ、キィ……。
「「「おはようございます、旦那様」」」
「やぁ、皆おはよう。今日も一日よろしく頼むよ」
今朝は一段と和やかな雰囲気で現れた当主オニキスの声に皆、頭を上げ顔を見合わせる。無意識だが自然体で居られる自分たちの心を感じているお手伝いたちは頬を染め、思わず笑う。
オニキスは席に着く前に窓際へと目を向け、歩き出す。
カチャ。ふわぁー……っ。
そして少しだけ窓を開けると爽やかな風がさらりと吹き同時に、食事の部屋には昨日よりもはるかに愛溢れる空気が流れる。
(なんと穏やかな、暖かい陽光だろうか)
この日、屋敷の皆が安穏な表情で働けているのには早朝、スピナ専属のお手伝いであるノワからの伝言に訳があった。
『皆様――スピナ奥様は体調不良の為、お食事は自室で召し上がられます。その後はお茶会のこともありますので大事をとり、お部屋でゆっくり休養なさるとのことです』
『――ザワッ!!!!』
ベリルが亡くなったとされてからの十六年間で初めての事に皆、一驚を喫する。
『体調不良って。あの奥様が』
『ほ……本当に?』
『はぁ……』
このベルメルシア家に気付けば存在していたスピナ専属のお手伝い――ノワからの言葉はスピナからの声であり、命令であり、揺るがぬ決定事項であると。それが屋敷内では暗黙の了解となっていた。
これにより今回の話は屋敷中の皆にとって深い安堵感となり心の声が漏れてしまう程でそんな意味での溜息がふぅと、出ていたのだ。




