428.反省
(いつも屋敷内で見かける時の、あの雰囲気に戻っている)
ラルミの変化にそう感じたジャニスティだがしかし、その言動に違和感はない。
――そう、それは。どちらの彼女も芯は【ラルミ】という、同一人物なのだ。
「ジャニスティ様……お聞きください」
「え? あぁ、もちろんです」
「ありがとうございます。では、お嬢様のことですが――」
「アメジスト様の?」
「はい。この度、魔力開花をなされたばかりにも関わらず、何とか自身の力を引き出そうと苦悩され、魔法を自在に使えるようにと懸命に頑張っています。そして【ベルメルシア家の血を継ぐ者】としての名に恥じぬようにと意識向上と努力を……ご自分の決められた運命と向き合おうとなさっているのです」
「えぇ……そうですね」
黙って俯いた彼の目には、どんな時でも諦めず何事にも一生懸命なアメジストの姿が浮かぶ。その心奥には一瞬でも弱音を吐いてしまった自分を情けなく、反省する思いだ。
きまりが悪そうに顔を上げたジャニスティに彼女は「そうですよ」と元気よく、満面の笑み。
その明るさにつられたのか?
彼は他人にはあまり見せない、珍しく子供のようなはにかみ笑顔で応えていた。
柱の時計が鳴ってから長く、話していたように感じるがそう時間は経っていない。考えは伝心するように声に出さずともお互い、倉庫の扉へと歩き出す。
“コッ――コッ、コッ……カツン”
「あの、ジャニスティ様……もう一つよろしいですか?」
「はい?」
「どうかこれからも……いえ、これまで以上に。お嬢様だけの……んぁいえ、コホンっ! どうか心身ともに、お力添えくださいね」
「はい、もちろんです。御嬢様の事は必ずお守りすると誓い、肝に銘じます」
『ふふ……』
「ラルミさん?」
「あッ! な、なんでもありません!」
(思わせるような笑みに『これまで以上に』との言葉……考えが見えないが、そもそも私が気にし過ぎているのだろうか)
――それとも何か……深い意味でも?
「そう……ですか。それなら、良いのですが」
この日、隠し扉内で話した光のベリルと、こうしていつの間にか気兼ねなく話せるようになっていたラルミ。二人とも彼の心に引っかかるような、意味あり気でどこか関心を持つ言葉を言い残していた。
(それが決して、悪い意ではないというのは判るんだが)
解けない謎のように感じるその事だがジャニスティはどうも尋ねづらく、しかし気になり考え込む今も一瞬目を細め、右手を顎に添えていた。




