427.光翠
数十秒間、沈黙していたラルミは目を閉じた。
すると彼女の身体から“ポゥ”と丸く小さな光が数個、生み出されてゆく。
(淡い、丸い光……)
二人は向かい合い立っている。その場所の横にある窓からはキラキラと太陽の光が差し込んでいた。
しかしラルミの放つ光は陽光とはまた違った、翠色の輝きをしている。
「これは……」
(まるで宝石のようだ)
彼の発声とほぼ同時にラルミは両手のひらを自身の胸元で握る。そこに光が集まり始めると彼女は包み込むように受け止め、一言。
「微力ながら」
「光……ですか」
「はい」
こんな私でも少しだけ魔法が使えますのでとラルミは話す。そして彼の手で大切に抱えられたままの本――『花の舞う言葉たち』に触れ、光を注ぐ。
まるで本の中へと、命を吹き込むかのように。
(柔らかく、穏やかで。静かに灯るような光の魔法だ)
「ジャニスティ様。ご心配なさらず」
「――!」
この時ジャニスティは自分の都合ですべてを報告するという自身の発言に多少の心苦しさを感じていた。
その理由の一つに、ベリルとラルミが抱いてきたであろう希望やそれを秘密として守り続けてきた、約束。そんな今日までの苦難を越えてきた時間を、もしかしたら壊してしまう事になりはしないかと、懸念したからだ。
が、しかし。
自分の考えはすべて見透かされているかのようなラルミの言葉にジャニスティは内心、驚いていた。
「私は忠誠を誓うベルメルシア家にこの命を捧げ、そしてベリル様に一生仕えると誓った者でございます」
「あぁ、はい。私も同じ誓いを」
「ですので、敬愛するベリル様が心から愛した旦那様もまた、今は私の主とも言えるでしょう」
「ラルミさん……」
(なんと、お心の強い御方だろうか)
「お茶会まで時間がありません。ジャニスティ様……どうか、よろしくお願いいたします」
手を揃えると軽く頭を下げる、ラルミ。その様子に困惑した顔で「頭を下げられ頼られる程の者ではない」と彼は、自然と感じた思いを彼女へと話す。
「……貴女は、すごい。そのような御方だからこそ、ベリル様がご自身と愛する者の命を預ける程に、全幅の信頼を寄せておられるのでしょうね」
この瞬間――ジャニスティの心奥に暗い影が過ぎる。
それを察したラルミはどこか落ち込んだ表情になった彼を勇気づけるよう冗談交じりに、笑む。
いつもの明るく落ち着きのない雰囲気のお手伝い、ラルミに戻ると「アメジスト様を見習ってください!」と、話しかけた。




