422.深意
そんな困惑した様子の彼へラルミは、語る。
「元々お二人は仲の良い友人、または姉妹のようだとも言われていた程です」
「そ……それなら、揉めてもいいと?」
物心ついた時には親兄弟のいない荒んだ時代を過ごしていたジャニスティにとってやはりその領域は未だ理解できない深意が、多くある。ラルミは彼の言葉からそこに何か察したものがあったのか? 簡単に説明を入れた。
「揉める、とはまた違います。仲が良いというのは、ただ楽しいだけの相手を言うのではなく、良し悪しを互いに認め言い合える事を言うのだと思います。時には笑い、時には怒り、泣くこともある。それが本当の“友人”ではないかと」
「……なるほど」
(恥ずかしい限りだが、頭では分かっても理解できない。こればかりは急に解ろうなどというのは無理な話だろう)
――私の人生において、不足している部分が露呈してしまったようだ。
「あくまで私個人の意見ですので」
そう付け加え軽く頭を下げたラルミは「それから」と、再び話の続きへ移る。
「しばらくして、さらに事態は危険な方へと向きます」
「危険? 何か、理由があったのか?」
「はい。それはベリル様が、御嬢様を身籠られた頃に起こり始めたことです」
懐妊の知らせを受け屋敷内だけではなく街の皆にとっても心から喜ぶ話、めでたいことだ。しかしそこでより一層の妬み嫉み、そして異常なまでの嫌悪感に発狂する思いであったのは――スピナである。
「この時期を境に、ますます距離を置かれたスピナ様が影から放つ、目に見えぬ嫌がらせが増します。そしてついにベリル様自身、命の危険を感じさせる出来事も起こってしまうのです。おそらくその頃からでしょうか……旦那様へできる限りの記憶を伝えたいと『ベルメルシア家の話』も含め毎晩お話になり、私にも様々なことを話してくださいました」
「そうだったのですか……しかし、なぜ」
(ベリル様は旦那様に相談をしなかったのだろうか)
やはり理解できない思いがあるなと、少し眉をひそめたジャニスティの心奥にはあの“スピナ”に対する怒りが沸々と、沸き上がってくる。
(それにしても)
事前にオニキスから聞いていた、ベリル妊娠の話にはなかった事――ベリルがスピナから嫌がらせを受け、それでも道を正そうと向き合おうとしていたのだという話。そしてまるで子供が生まれるのを阻止しようという『命の危険を感じさせる出来事』があったという事実を、オニキスは知らないのだ。




