419.眼力
そしてゆっくりと瞬きをした、その後。
ラルミは普段見せる印象とは違う雰囲気へと変化し、それは早朝アメジストから『ベリルお母様のお力に関する事を教えてほしい』とお願いされ話した姿と同じで柔らかな視線からも強い信念が、伝わってくるようである。
一つだけ違いがあるとすれば今自身の置かれている状況に対する見えない不安とジャニスティを前に少しだけ緊張しているということぐらいだろう。
(落ち着いた笑みを見せているが……)
ジャニスティは心の中で、思う。
十年の間、アメジスト以外に目を向けることはなかった彼であるが屋敷の者たちがスピナへ対する恐怖心などで震え弱々しく身動きの取れないことが当たり前の状態であることを当然、知っている。その中の一人でもあった彼女がアメジストを気に掛ける様子もこれまでに何度か見かけたこともあり少なくともラルミに見覚えがないわけではない。
それでもこれまでの記憶上知る“ラルミ”というお手伝いの雰囲気とは似ても似つかぬ、今の表情。
(これが彼女の……あるべき本当の姿なのかもしれないな)
目が合ったまま、離さない。その目は茶系で飴細工のような艶を持ち、瞳の奥にある真意を視る彼もまた、彼女から強い緊張感をひしひしと感じる。
隠し扉でのベリルともそうであったが、眼力による意思疎通が出来そうなくらいに強い視線だと感じたジャニスティは心を鎮めるように「ふぅ……」とゆっくり息を吐き一回、目を瞑ると意を決しいよいよ核心に迫るべく、口を開いた。
「では申し上げます。御嬢様がお生まれになった日、その夜に起こった出来事についてお聞きしたい」
その言葉にぱちぱちと増えた瞬きと一瞬驚いたような顔で小さく口を震わせたラルミはすぐに笑みを浮かべ、一言。
「ジャニスティ様はもしや、ベリル様にお会いできたということでしょうか?」
焦りを表情に出してはいないが急いでいることに変わりないジャニスティは彼女からの言葉にハッと微動する。それはたとえ唐突で答えにくい話だとしても問題を円滑に前へと進めるためには簡単でも状況説明などの前置きは必要だったなということに、気付いたからだ。
「失礼いたしました、ラルミさん。質問をさせていただく前に、いくつかお伝えしておきます」
そう言うとジャニスティは会合のことは伏せつつも現当主オニキスから聞いた『オレンジ色の花があり癒やしと少しの冷静さを取り戻せた』という必要最低限の内容から、説明した。




