418.倉庫
「ジャ、ジャニスティ様!?」
「ラルミさん、だったね」
「そ、そうです」
彼を見てさらには名を呼ばれ驚き、目をまんまるにし応えたのはアメジストが心を許しているお手伝いの、ラルミであった。この時ジャニスティは顔色一つ変えず全く動じる様子もない。
とはいえ同じ出口から以前とは違った場所に出てきたことには驚いた彼だが今この状況に対して冷静に話せているのには、訳がある。
「でもなぜです? なぜ、貴方様が此処に……」
(この倉庫は鍵がかかっていたはず。それなのに)
「色々と、事情があってな」
(もしや……私が最後に言ったことで、ベリル様が彼女の元へと導いて下さったのだろうか)
――現在は隠し扉内がベリル様の領域とはいえ、出口を操作することが可能なのか?
そう、それは隠し扉内でベリルの姿が消えゆく直前。ジャニスティが彼女へと訊き許しをもらっていたこと――『枕元に花を置いた人物であるラルミへ、当時の話を直接、聞いても良いか』との内容であった。
「……」
「……」
しばし、二人の間に何とも言えぬ沈黙の時が流れる。
魔力によって映し現れた姿とはいえまさかジャニスティがベリルとの対面を果たしまた、アメジストが生まれたあの夜に起こった全容を彼が聞いているとは知らないラルミは動揺しつつも愛想笑いを浮かべ、そそくさと倉庫を立ち去ろうと話す。
「そ、そうなのですね……えーっと食器、食器……あぁっと、もうこんなお時間ですね! それでは、私はこれで――」
「待て」
「あ、え……?」
「聞きたいことがある」
「……はい」
その厳しくも感じる一言だがそこにいつもの“御嬢様のお世話役”の印象とはまるで違う思いをラルミは、抱く。
そして聞いたことのないような彼の柔らかく澄んだ声になぜか? ラルミは敬愛する前当主を思い起こし一瞬で彼の瞳の中へと、惹き込まれてゆく。
それは不思議な感覚。
薄暗く静かな備品倉庫内が明るい光で灯されたようにジャニスティの美声が心地良く響き、広がる。
(この安心感で包み込まれるような空気感、懐かしい感じだわ)
――あの時、アメジストお嬢様とお部屋でお話した時の……ベリル様がお傍にいらっしゃるようで。
彼自身もその穏やかな感情とこれまでに感じたことのない余裕と温かな感情が自分の内から生み出されていることに気付きその心をゆっくり、満たしてゆく。
「時間がないので単刀直入に伺います」
「はい。どうぞ仰って下さい」
そう言い彼女から自然と笑みが溢れた。




