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410.施錠


 コーン、コン、コッコン。


 ガチャッ、キィー……。


『ん~ッふふ♪ ベ~リルゥ~、起きているかしらねぇ?』


『お姉様……』

 ほやっと笑い迎えたベリル。しかし心奥はとても複雑な心境だ。


『~~♪ あらあら? 随分と元気そうで……フッフフ』


 不規則なリズムで扉を叩いた大きな音は屋敷の廊下に、響き渡る。しかしすでに人払いがされた部屋の近くには、誰の姿もない。


 そしてベッドで休む当主(ベリル)の返事も待たず勝手に扉を開ける、訪問者。陽気に鼻歌を歌いながら部屋に入ってきたその者の頭には、“産後で疲れているベリルの体に障らぬように”などという気遣いの心は、微塵も感じられない。


 そう。部屋へ来たのはベリルの予感通り、スピナである。


『すみません、このような格好で』


 キィィ、ガチャッ……。


『まぁまぁ、そのまま寝ていていいのよ~。気にしなぁ~いでちょうだい』


 ――――“カチャリ”。


 ゆっくりと扉が動き閉まる。それからベリルの甲高い声へ紛れるように聞こえてきた、音。それは後ろ手に彼女が施錠した、鍵音である。


 ツカ、ツカ、ツカッ――ばさっ!!


『ねぇ? 可愛い可愛い、ベ・リ・ルちゃん』


 大きな足音を立てベリルが横になっているベッドに勢いよく座ったスピナは囁くような声で言う。


『はい、お姉様……一体、どうなされたのですか』

 ベリルが一度も()()()()がなかった友人スピナの冷笑する、口元。


――この女、チッ。

『オッホホ! やぁねぇ~、一体とは何?』


 そしてスピナ自身も『これは相手に恐怖心を与えられる力だ』と自負する程に、悪しき部分であった。これまでその美しい美貌から沸きあがる背筋の凍るような表情に恐れ(おのの)く者も少なくない。


 しかし今、目の前にいる彼女が――ベリルが全く動じる様子もなく変わらずいつも通り自分に微笑み応える姿に一瞬意識を持っていかれそうになったスピナは舌打ち、顔をしかめる。


 が、すぐにまた笑顔を作る。気を取り直すように足を組むと再び視線をベリルへと向け、嗤笑(ししょう)し口を開く。


『ねぇ、私が学生の頃に話した花言葉を覚えているかしら?』


『えぇ、よく覚えております。お姉様が教えて下さる花についてのお話は、いつも素敵で、奥深く物語のようでした』


『ふぅ~ん……』


 ぎしっ。


 一言だけ言うとスピナはベッドから立ち窓から降り注ぐ雪をしばし黙って見つめる。


 その間ベリルの手は掛けられた布団の中で組まれ仰向けに天井を見ていた翠玉(エメラルド)色の瞳は、閉じられた。


 まるで互いに何かを、祈るように。


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― 新着の感想 ―
緊迫したシーンが目の前に見える様です!! ドキドキドキ
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