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41.異様


 彼は怒りとは違う、しかし不機嫌そうな表情で扉の向こうに話しかける。


「何をお考えなのか理解できませんが……奥様、発言には責任を。どうぞ、今日はお引き取り下さい」

 ジャニスティはスピナの事を(おそ)れることなく強い口調で、釘を刺す。それはまるで忠告するかのような言葉で話を締め(くく)ろうとした。が、しかし。


 それを聞いて黙っているはずのないスピナ。激高した声が部屋の外で響き渡る。


「何、何、な〜にっ? それは何、その口の聞き方は何かしら? このスピナ様に口答えするなんて信じられないわねッ?! この血塗られたサンヴァル族がッ」


 バンバン、バーンッ!!!!


 拾ってあげた恩を忘れたのか、という耳にキンキンと痛く響く叫び声と一緒に扉を激しく叩き、今にも壊れそうな程の音がしていた。


(酷い、お母様。なんて事を)

 継母とはいえアメジストは自分の母がこのような言葉を口にし、非常識な罵声を浴びせる異様な様子に驚きとショックを隠せずにいた。


――ギュッ。


(ジャニス……それにクォーツ?)

 表情を変えない彼の腕は抱擁力が増し、クォーツはアメジストにぴたりとくっつく。


 二人とも彼女に「大丈夫」そう言っているようだった。クォーツは透き通った瞳でアメジストに微笑みかけると彼女の膝に頭を乗せ、ゴロゴロと甘えるような仕草を見せる。


(可愛い……)

 その髪をふと撫でるアメジストの心は不思議と落ち着いてきた。


(綺麗な空色の髪。さらさら……絹のようだわ)


 横目でアメジストとクォーツを確認したジャニスティはひと安心するとスピナの声に屈する事なく、聞こえ続ける罵声に立ち向かう。

 そう、スピナの異常とも言えるその様子にジャニスティはますます冷めたオーラを放ち、冷静かつ抑揚のない声で答える。


――叫び狂うスピナを(あわ)れむように。


「ベルメルシア家と交わした取引の内容をお忘れですか? その一つに『魔力回復をする時は近付くな』、そう契約したはずです」


「うるさいわよ、ジャニスティ」

 スピナの勢いは抑えられ、小さい声で呟く。


「よって違反となりますが、奥様。明日、旦那様にはご報告を――」

「お黙りッ、ジャニスティ! 随分と強気ね、偉くなったものだわ。お前は、この私を脅す気かしらね?! ふんっ!! 旦那様に言ってみなさいよ? これから先どうなるか……ただじゃおかないわよっ!」


 バンッ! カッカッカッ――コツ、コツ……。


 最後に扉を激しく叩くと物凄い速さで歩き去っていく、スピナの足音が聞こえてきた。


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― 新着の感想 ―
[一言] スピナは何か裏があるのかしら??
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