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409.見過


『ベリル様、お花をお持ちしました』


 オニキスが産後のベリルを労い喜びの時間を二人きりで過ごし部屋を出て行くのを見届けた、すぐ後。敬愛する当主の枕元へ依頼された花を届け置いたラルミは深々とお辞儀し、挨拶。しかしその足元は少し震え右手は不安で押しつぶされそうな心臓の音を消すようにぎゅーっと胸を抑え、拳が握られていた。


『あなたを巻き込んでしまって。本当に申し訳ないと……』


 自分の死期を感じ予言と秘密を話したことで変化した、ラルミの表情。様子に気付いたベリルは状況が好転することなく悪い方向へと進んでしまった自身の力不足に心が、折れてしまいそうになる。


 しかし。


(このままではいけないわ。そう、可能性ある限りやるしかない)


――覚悟の上よ。


 ベリルは当主として。

 すぐに気持ちを切り替えるといつものように悠然と構え意識を凛とした雰囲気へと、戻す。


 自身の弱さを彼女に悟られまいと笑顔で、声をかけた。


『ラルミ』

『んぁ、はいっ』


 “ふわっ”


『ごめんなさいね』

『そんな……ベリル様』



 沈黙の中で突然自分の名を呼ばれた彼女は心配そうに、急いでベリルの元へと駆け寄った。まだあまり動けないベリルは横たわったまま、彼女の潤んだ瞳をじっと見つめながら頬へそっと触れ優しく撫でる。


『辛い思いをさせてしまって。でも、あなたは何も心配しなくて良いのですよ。“何も起こらない事”が一番です……しかし、恐らくその可能性は極めて低い』


『……はい』


『どのような結果になったとしても、たとえ時間がかかったとしても、必ず――だから、ラルミ。どうか気に病まないでね』


 ベリルが予期していた事柄。

 それは自身の生命の灯が消え息絶えてしまう危機的な状況でそのきっかけとなる出来事が、視えていること。さらにその真実はベルメルシア家の屋敷に居候させてほしいと懇願し一緒に暮らしている者が闇空間にのまれ、堕ちゆくことを指す。


 その者とは、ベリルにとっては友人でありまた姉のような存在でもある――スピナの事だ。


『それでは、失礼いたします』

(どうかまた、元気なお姿にお目にかかりたい……)

――ベリル様のご無事を切に、お祈りしております。


 心の中でそう強く願うラルミは一筋の涙を流した。




『美しい雪……』

 ラルミもいなくなり静けさを感じる、夜。


 窓の外でチラチラと輝く雪景色を眺めしばらくすると、予感していた通りの出来事が起こる。それはとある訪問者がベリルの寝室へとついに、現れたのだ。


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