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408.予言


『――そぅ……』


「……? ベリル様。いかがなさいました」


『いいえ、何でもありませんわ』


 何かを気にかけるようにふわんっと周囲を見渡したように彼には見えたが、しかし。ベリルは何事もなかったようにスッと表情を戻す。そして視線を声のした方へ――ジャニスティの青い瞳へと向けた。


 そこからは息つく間もなく彼女は、話し出した。



 十七年程前のある日。

 いつものようにゆったりと時間を過ごしていたベリルは突如、心の隙間に冷たく乾いた風が流れるような“気”を感じる。それはあまりにも悲哀に満ちた感情と恐怖にも似た、震撼であった。


 数日前に自身の妊娠を確信し皆に知らせていたベリルはこの現象に“何かよくないことが起こる”かもしれない、そう思った。


 まだ薄靄(うすもや)すら見えぬ段階で危険を感じた彼女はこの日から、ある準備を始める。


 それはオニキスが時間を作りアメジストにも話した内容。


『身籠り出産するまでの約十ヶ月間。ベリルは毎晩欠かさず眠りにつく前、自分の辿ってきた思い出話をオニキスへと語り伝えた』という話でありそれはまるでベリル自身いなくなることを予期していたかのような、行動であった。


 そしてついに哀しき事態が起こった、あの晩。


 無事に出産できたベリルはホッと安堵する。

(良かった。この子だけは)


 産後、屋敷内で最も仲が良いお手伝いのラルミにその胸に秘めていた【予言】を、話した。


『私の生命はもうすぐ尽きます。それは運命、という意味ではなく……』


『ベリル様、そのような悲しい事……仰らないで下さい』


『ラルミ、貴女にこのようなお話をしてごめんなさい。誰にでもいつかは訪れる、灯火が消える日を受け入れない訳ではありません。しかし、(わたくし)にはまだ、やるべきことがあるのです』


 その未来をなんとか変えたいというその思いを込めベリルは大切に育ててきた【オレンジ色のマリーゴールド】を持ってきてほしいと頼んだ。その後、枕元に置いたその花にはベリルの魔力が施されているのだとラルミには解った。


(どうか、ベリル様の想いが届き、思い(とど)まってくださいますように)


『何とか、不幸な出来事が起こらぬようにと。想いを込めて』


『はい。私はベリル様のご無事を――』


『もしも……私に何かあったら。娘を――アメジストをお願いね』


 産まれる前から決めていた可愛い愛娘の名を呼び、微笑むベリル。


『ぁ、しょ、承知、いたしました』


『ありがとう……』


 だが、その願い虚しくベリルは――永眠した。


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