405.諸相
ラルミだけに話したとされる秘密はもちろんだが先程ベリルが言った言葉――『最期まで願っていた』とは何のことなのか? ジャニスティの頭の中でその台詞が妙に、引っかかっていた。
そうならないように、と二人が交わした秘密とは一体何だったのか。詮索してはいけないと分かっていても彼は心の中でそんなことを思ってしまう。
(気がかりではあるが、恐らくとても重要な機密なのだろう……これ以上、こちらから聞くわけにはいかない)
自分から立ち入る訳にはいかないと思い悩む彼の思案する顔がベリルの瞳に映る。此処で会話を始めてから彼女は彼の言動を観察しどのような魔力を持ち能力があるのか。その中でも一番重要視していたのは相手を思い敬う心の部分。
その観察眼はベルメルシア家で長く執事を務めるフォルにさえ勝る能力。話をしながら彼女は今の姿で出来る可能な限りの力でジャニスティの分析をしていた。
それでも当然ながら全てを見据えたわけではない彼女だが、しかし。
彼に対して感じ取る懐疑心は一欠片も、生まれなかったのである。
それから真剣な眼差しで『いつも書庫で本をお読みになっているあなたでしたら』とベリルは淡々と、話し始めた。
『その本――花の舞う言葉たち、にも書いていますが。花には様々な意味と役目、その姿があります。そして、私が大切に育てていたオレンジ色のマリーゴールド……そこに込められていた意味は【真心】。つまり【偽りなき心】であり【真につくす心】でもあるでしょう』
「はい。しかし私の知識は浅く、熟読したとは言えませんが。多少の花言葉は心得ております」
『あら? うふふ……えぇ、そのようなこと。ご心配いりませんわ』
(本当にサンヴァル種族は素敵な方ばかり。嘘のつけない、正直かつ真面目な御方ですわね)
――この方であれば、きっとアメジストを護ってくれる。
子供の頃から信頼するフォルや、愛する夫オニキスにも言わず。
彼女がラルミにだけは話し頼んだ、その理由。
しかし今、この時、この瞬間――ベリルはラルミにだけ託したその真実のすべてを“ジャニスティ”には明かそうと、心に決めた。
その心奥には彼がベルメルシア家に来てからの約十年間。“御嬢様専属の教育兼お世話役”として立派に務めてきたであろう事実が垣間見えたことの他に、愛娘アメジストを大切に想ってくれているのだという彼の“特別な気持ち”に気付いたことも、信頼の置ける相手と判断した一つの要因となった。




