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404.花台


 部屋には現実が受け入れられないという沈痛な面持ちで集まる皆の悲しみが漂う中、茶系の瞳を潤ませたラルミだけは涙を必死で(こら)えていた。


『奥様!?』

『ベリルさまーッ』

『どうして……こんな』


 目の前に映るのは涙色に染まる皆のむせび泣く、光景。しかしなぜかそれが遠い場所で起こっているかのように見え、まるで自分だけ隔てられた世界に立ち竦み、別の場所から眺めている印象を感じた。


(みんなとは違う……私の心にあるこの痛みは、奥様のため。どんなに悲しくても、私が暗闇に飲まれてはいけないわ!)


 自分自身を鼓舞する。

 その芯にある強さの理由は恐らくベリルから『頼まれた』内容にあった。


『何があっても……』

(私は、絶対に奥様とのお約束を遵守いたします)


 ラルミは“自分だけが知る”であろうベリルの思いを心に留め強く、誓った。



「彼女だけが知る、ラルミさんだけに話した秘密がある、ということですね」


『えぇ……しかし、そうならないようにと。(わたくし)もラルミも、最期まで願っていました』


 彼の問いにベリルは答えそしてゆっくりと右手を、動かす。その手のひらが案内する様に指し示した先にはとてもお洒落なフラワースタンドがあった。上に何も置かれていない引き出し付きのそれを見た彼は尋ねるようにベリルと、目を合わせる。


 その視線に彼女は眉を下げ力なく笑み返すと、話を続けた。


『お尋ねの事……ラルミに準備してもらった枕元のお花ですが、それはジャニスティさんが手に持つ本の、今開いている頁に描かれた花。オレンジ色のマリーゴールドですわ』


「美しい、鮮やかな色をした絵ですね」


 そして彼は本の中に咲く絵のマリーゴールドを優しく、撫でる。


『えぇ、美しいお花です。愛情を込め育てたマリーゴールドはこの場所で咲き、私と共に生きてくれた、大切なお花なのです』


(此処で……ということは)

「この隠し扉は、花を運んだラルミさんも」


 ジャニスティの言葉にベリルはコクンと少しだけ、頷く。


『ラルミはこの扉の存在を知っていますし、見えています。私がこのような状態になる、ずっと前から』


 ベリルはベルメルシア本館中庭に咲く花々を一緒に愛で(手入れし)日々の出来事を楽しく話し過ごしたラルミとの時間に思いを馳せ、微笑する。


「この中は、認められた者以外の侵入は決して許されないと旦那様から伺いました」


『えぇ、仰る通りです』


 ラルミもまた彼同様に。

 “ベルメルシアの瞳((血族))”から認められた者ということだ。


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― 新着の感想 ―
次のお話でラルミ様の事がもっと分かるのかしら?(*^。^*)
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