403.回顧
「ベリル様……教えてください。ラルミさんに依頼をしたというその花は、産後に旦那様が部屋へと行かれた際にはなかったと聞いています」
『そう、ですわね……』
「その後、枕元へ置かれたのには、何か理由があったのでしょうか」
ジャニスティの質問に彼女は少しばかり考え込む。だがすぐに顔を上げアメジストがこの世に生を受けた日――ベリル自身“永い眠り”につく結果となってしまった“あの夜”について少しづつ、その思いを向け始めた。
◆
遡ること――十六年前の二月。
その日は、寒さも忘れるほどの美しい夜。ふわふわとした雪が月の光にキラキラと輝き舞っていた。
『お疲れさまです奥様、そしておめでとうございます! とても元気で可愛らしい女の子です!!』
『そう……ありがとう』
出産時ずっと傍でベリルを支え勇気づけ、その後は労いとお祝いの言葉を口にしたのは当時ベリルと仲の良かったお手伝いの――ラルミである。
『はぁ……。一時は難産かとも言われておりましたので、ホッとしました。本当、母子ともにご無事で良かったです。あっ! こうしちゃいられませんね!! すぐに旦那様をお呼びしますので――』
産後、落ち着き身体を休めているベリルに嬉しそうにそう伝え部屋を出ようとしたラルミ。と、その時「待って」とベリルの呼び止める小さな声が聞こえてきた。
『んぁ、はい? 奥様、いかがなさいましたか』
『ラルミ。あなたに、お願いがあるの』
今まさに幸せいっぱいなはずのベリルは少し落ち込み表情は固く、次第に神妙な面持ちに変化してゆく。
『えぇ? 奥様……一体、どうなされたのですか』
『いつも私と一緒にお庭の花を愛で、欠かさず美しく手入れをしてくれて、同じ思いを抱いてくれているあなたにしか話せない……頼めない内容なのです』
ベルメルシア家に来てから長く彼女に仕えてきたラルミでも見たことのない様子に何かを一瞬で、悟る。
『わかりました。私でよろしければ、何なりと』
『ありがとう』
クスっと力なく笑うベリルの笑顔から察した、覚悟。何か良からぬことがこれから起こるのではないかとこの瞬間ラルミは、憂慮する。
その数時間後。
ラルミの予感は的中。
『原因不明だと?! どういう事だ! ベリル……あぁなんという』
見たことのないオニキスの取り乱す様に周囲は彼にかける言葉もない。
皆の幸福を一番に願い祈り、希望と勇気そして愛を与え続け、誰からも愛された人物――ベルメルシア=ベリルは息を引き取ったのだ。




