402.賛意
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――すべての花たちは何かしら意味を持ち、
その個体もまた何かしらの力を持つ。
開かれた頁の文章の中でも一瞬でジャニスティの目に入りなぜか気になった、一文。
産後のベリルが休むベッドの側、枕元に置かれていた美しく鮮やかな輝きを放つ、オレンジ色のマリーゴールド。息を引き取ったと聞き悲しみに打ちひしがれ混乱状態だった当時のオニキスに一瞬で冷静さを取り戻させた、花でもある。
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(ラルミ……御嬢様が心許す、あのお手伝いか)
ジャニスティはラルミの事を“屋敷で働くお手伝いの一人”とだけ認識してきた。しかしクォーツを救助した後からはなぜか? 彼女と会話しその存在を強く感じるようになっていた。
『ラルミは私が心から信頼する者。そして大切な親友であり、また“家族のような存在”でもあります』
「家族……」
――『私たち三人、身体の中から繋がっているんだわ』
ふと、元気いっぱいなアメジストの可愛らしい声が彼の中を満たす。
それは、そっと。
目を閉じれば視えてくる光景。
瞼の奥に浮かぶのはその美しい指に傷をつけてまで自分の血を飲ませ必死で命を救ってくれようとした、アメジストの姿。
そして自分たち――ジャニスティとクォーツと「まるで家族ね」と幸せそうな表情で言った彼女と見つめ合った桃紫色の宝石のような輝きを持つ、大きな瞳。その麗しい笑顔は彼の心奥で悦びとして映り、思い出されていた。
(そうだ、あの時。アメジスト様は自身を犠牲にしてでも、私のような者の身を案じ生命を与え、“家族”とまで仰って下さった)
そう思えば思う程、考えれば考える程に。
ジャニスティがアメジストを想う心は熱くなってゆく。
「ベリル様の仰る“家族のような存在”という思いやそのお考え、お気持ちに。私は心から賛同いたします」
『それは、どうしてかしら』
「御嬢様が……アメジスト様がこんな冷酷な心を持つ私に“家族”の意味と、生きる者として不足している部分を、多く教えて下さった」
『アメジストが……』
「はい」
『ジャニスティさん……あなた、もしや』
「――?」
『……いえ、何でもありませんわ』
何かを言いかけ口元に手を添えたベリルを不思議そうに見つめる天色の瞳。それに応えるかのような彼女は嬉しそうな顔で柔らかに微笑み、話を戻した。
『私もです。ラルミには支えてもらってばかりで』
ベリルとラルミ。
二人の絆は強固なものであり何者でも邪魔はできないとその深さに彼は、改めて気付くのであった。




