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4.信頼 ✧


「…………うぅ」


 虫の息とはこういうことを言うのだろう。助けたその子は、馬車に乗せてすぐに生死の境を彷徨(さまよ)うかのように、とても苦しみ震え始めた。


「すまないが、もう少し急いでくれ!」


 それを見ていたジャニスティが御者(ぎょしゃ)に声をかける。


「は、はいっ!! 出来るだけ急ぎ努めておりますが」


 大雨の中、道が悪いにも関わらずスピードを上げようとするが、なかなか困難を極めた。馬車の車輪は滑り泥水は扉にまで跳ねる。そううまく進む事が出来ない。御者も急ぐとは答えたものの、安全にと思えば思うほど、この天候でのスピードは出せなかった。


 結局、到着までに三十分。

 いつもより倍の時間がかかってしまい、ジャニスティは焦っていた。


――ガタガタッ……バタンッ!!


「申し訳ありません。これでも出来るだけ急いだのですが、何のお役にも立てず。ジャニスティ様、アメジストお嬢様、本当に申し訳ありません」


「いいえ、何を言うの?! 十分急いで頑張ってくれていたじゃない! 無事に屋敷へ帰ってこられて、とても感謝しているのよ」


 そうアメジストは答え、急いで馬車を降りる。ジャニスティは右腕に救助した子を抱き、左手では傘を差し先に降りていた。


「ジャニス、無理しないで! 傘は私が……」


「いえ、お嬢様はお気になさらず。裏口から私の部屋まで運びます。皆に気付かれぬよう――さぁ早く! 急ぎましょう」


「そうね」


「お二人ともどうか……お気をつけて」


 そう言葉をかけて二人の身を案じているのは、アメジストが幼少の頃より馬車を引いてくれている御者のエデ。いつも優しく笑顔で、どんな時でも彼女の味方をしてくれる。天然パーマで貫禄のある、信頼できるおじ様である。


「エデ、ありがとう!!」


 アメジストのお礼の言葉に恐縮しながら、エデは再度深々とお辞儀をし、二人の姿が見えなくなるまで頭を下げ見送っていた。


「……どうか、どうか皆様のご無事をお祈りしております」



「お嬢様、こちらへ」


 アメジストたちは、屋敷の誰にも見つからぬよう細心の注意を払いながら、裏口を通り急いでジャニスティの部屋へ向かった。


――ギィー……ガチャ。


「この部屋まで来れば安心です」


 ジャニスティはそっと、運んできた子をソファベッドに寝かせる。


「は、早くお医者様を……ジャニス、私はどうすれば、何をすれば?!」


 すると部屋に着いた途端、パニック状態に陥るアメジスト。張り詰めていた糸が切れたかのように突然、動揺し涙を浮かべていた。


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