398.旧時
「私がこの花の持つ意味を調べていた理由は、貴女様が“永い眠りについた”とされる夜にあります」
『私、ですか?』
「はい。御嬢様……アメジスト様がこの世に誕生なされた日に、一体ベルメルシア家で何が起こっていたのか? 最終的にはそれを解明するのが私の目的です」
『……どうぞ続けて下さい』
声を発したベリルの視線は本へ向けられたまま。
だが彼の話を聞く姿勢に加え、身構えているのが分かった。
「では――」
彼は昨夜オニキスから聞いた“過ぎ去った過去”を、語る。
◆
十六年前――スピナが主導権を握ってから始まった悪夢のような日々。屋敷で働く皆が受けてきた強大な支配力に服従しないとどんな目に遭うか、との独裁者へ変貌したこと。
アメジストについては『ベリルから後の事をお願いします』と頼まれたというスピナの虚言により、継母となった後どんなに辛く苦しい幼少期を過ごしていたのか。
その家を護るべき立場であったはずのオニキスが当主としての仕事以外ではスピナへ何の手も口も出せなかったのには理由があり実は、スピナの魔毒(媚毒)に侵され操られていた可能性が高いこと。しかしそんな中でも魔力が無く無効化することなど出来るはずのないオニキスの一部感情は、決してスピナの悪力に惑わされることなく今日この日まで――“ベリルだけを求め愛し続けてきた”こと。
◆
『そうですか……オニキスが』
「はい。昨夜私が旦那様からお聞きした内容で最重要と判断したことを、おおよそお話できたかと存じます」
少しだけ頬を染める彼女の微笑みは幸せそうに見えた。
ホッ。
――良かった、な。
話をする際、スピナに主導権を握られてしまったオニキスの尊厳がベリルに誤解をされてはいけないとの懸念もありそこは、一番ジャニスティが気を遣い言葉を紡いだ部分である。
(私は旦那様の真意と想いを、最大限に再現したかった)
ここまでで自分がベルメルシア家へ従事する前の事は一言一句、聞いた内容に間違いのないように。そして十年前に屋敷へ来てからもなお悪化し続けている屋敷の状況を、ジャニスティ自身が見聞きし体験してきた思いから必要とされる箇所だけを話した。
『ジャニスティさんのお話は、よく解りました』
――ベルメルシア家がどのように変化したのかが、しっかり伝わっていればよいが。
「ありがとうございます。それから……」
彼は順を追って話してゆく。
そしてベリルの生死に関する真相についても、切り込んでいくのだ。




